ウクライナ侵略を続けるロシアへの制裁が次々と実施される中、物流を担う大手船会社などが、相次いでロシアとベラルーシ向けの輸送を停止している。欧州議会も域内の港にロシア関係の船が入るのを拒否するよう加盟国に呼びかける決議を出した。加えて、ロシア関連の船の積み荷にかける保険の引受人にも、手を引く動きが見え始めているという。実質的な禁輸制裁に近い状態が生まれつつあるようだ。

 

 

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ロシアとの貨物輸送受付停止を伝えるMSCのウエブサイト

 

 

 物流各社のウエブサイトや各種報道によると、これまでに停止を表明したのは次の通りだ。

 

●コンテナ輸送最大手のMSC(Mediterranean Shipping Company)は3月1日、同日からバルト海、黒海及び極東沿岸地域を含む全ロシアとの輸送受付を、医薬品や食料、人道上必要な物資を除いて一時停止すると発表した。同2日にはベラルーシに対しても同様の措置を取るとした。航空便、鉄道便も含む。

 

●二番手のA.P. Moller – Maerskも同2日までに、医薬品、食料、人道上必要な物資を除いて輸送受付を停止。同社も翌日には航空機、鉄道による輸送受付も停止することを明らかにした。同様にベラルーシ便も停止された。

 

●三番手のCMA CGMは2月24日にウクライナ便受付を停止したのに続いて3月1日にロシア便を停止。同4日にはベラルーシとの便も停止した。こちらはすべての輸送受付が対象だとしている。

 

●業界6位のHapag-Lloydは2月24日にウクライナとロシアへの便の受付を停止し、3月9日にはベラルーシ便も対象に追加した。ロシアとベラルーシに対しての輸送品に例外はない。

 

●日本郵船、川崎汽船、商船三井が共同出資し業界7位のオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は2月28日までに黒海沿岸のロシア・ノボロシスク港に続いてバルト海側のサンクトペテルブルグの発着便について受付を停止し、18日までに極東のウラジオストク港の便の受付も止め、ロシア全体に対象を広げた。

 

 このほか、DB SchenkerドイツポストDHLグループ、Kuehne+Nagel 、DSV、UPSヨーロッパなどヨーロッパの陸・海・空の運送会社大手も相次いでロシアとベラルーシへの輸送扱いを停止している。

 

 ただ、ロシア向け貨物の受付停止を表明している中に業界4位の中国のCOSCOは入っていない。ロシア制裁に否定的な中国政府の態度を見ればそうかとも思えるが、焦点になるのは中国やロシアの船会社による肩代わりが可能なのかどうか。物理的に可能だとしても、着目すべきは欧州議会(European Parliament)がロシア関連船の域内寄港拒否の呼びかけ決議だ。3月1日に出した決議では加盟国に対し、ロシア船籍だけにとどまらず最終寄港地か次の寄港地がロシア国内である船は、人道上必要だと認められない限り、域内のすべての港への入港を拒否するよう求めている。決議は法的拘束力を持ってはいないが、議会の影響力は非常に強く、これまでの制裁も議会の求めに応じた形のものが多い。また、すでにイギリスとカナダはロシア籍・所有・管理・用船・運行の船の入港を禁止しており、現に行き場を失って大西洋を漂う船も現れている。この決議が域内各国で実行されればロシアからの船便による輸送は極めて困難になるだろう。

 

 さらに注目すべきなのが、輸送貨物への保険引受人がロシアがらみの案件から手を引く動きを見せていることだ。1734年から船舶輸送に関する情報を船主や保険業者などに提供してきたLloyd’s Listによれば、複数の保険引受人(underwriters)が、ロシアかウクライナ、あるいは近隣諸国に向かう貨物に対して補償を引き受けないことを決めた。評価リスクや潜在的な保険金支払い上の困難を踏まえてのことだという。また、業界筋からは、ロシアの戦争を手助けしているとみなされることを避けるため、「ロシアの輸出から身を引いておく」という声も出ているという。ある保険引受人は同誌の取材に「我々の第一優先事項は自分たちのビジネスを守ることだ。よって、ほとんどの保険引受人はロシアやウクライナ、近隣諸国に関連する補償引受を取り消した」と語った。当事国ロシアは別として、積み荷に無保険の状態で船を動かそうとする会社はどれだけいるだろうか。

 

 

(IRuniverse 阿部治樹)