ウクライナ危機が戦争に発展し早15日。欧米がプーチン政権を締め上げるため、国際決済網からロシアを除外するなど、制裁は徐々に厳しさを増し、ロシアの世界経済からの排除が進む。こうした中、世界最大の供給量を誇るロシア産天然ガスなどエネルギーの他国のものへの切り替えが模索されている。

 

 ロシアのエネルギーをおいそれと埋め合わせることなどできず、昨年初頭にはLNG不足に陥りかけた日本さえも、欧米への融通を表明するなど、制裁参加国の間でギリギリのやりくりを強いられているのが現状だ。ロシア産ガスに最も依存するドイツなどでは、中東からの輸入を増やそうとする動きも見られる。

 

 中東の化石燃料生産国にとってビジネスチャンスが到来する中、有望な産油国・天然ガス生産国のリビアは、身動きをとれない状況となっている。長期にわたり東西両陣営の対立が続いてきたリビアでは、一昨年、停戦合意が結ばれ、昨年のクリスマスには新政府樹立のための選挙が予定されていた。

 

 しかし、大方の予想通り予定通りの実施は困難で、”混乱”により先月に延期された。そして、先月、暫定政府の首相が6月に”正当”な選挙を実施すると表明したが、これまでの経緯をみればあてにはならないのは明白だ。暫定政府が混乱と無能力ぶりを見せつける中、東部のトブルクに拠点を置く代表議会は、新たな首相を指名した。代表議会は、2014年の選挙結果により成立したものの、結果を認めようとしないイスラム主義者の反乱に遭ったことから東部に移転、ハフタル将軍のリビア国民軍の庇護を受け存続する。これによりリビアは実質2人の首相が存在する状態になった。国連は内戦再開を危惧し仲介を申し出たが、代表議会側が早速拒否した。

 

 ウクライナ危機は、リビア国内のパワーバランスにも影響を与えそうだ。残虐無比なことで知られるロシアの傭兵会社ワグネルは、ハフタル将軍など東部陣営に加勢するためリビアに傭兵を展開しているが、リビア国営通信が複数のメディアを引用し伝えたところによると、「ゼレンスキー拘束作戦」などウクライナでの軍事行動に参加するため、また、ロシアにとって重要な他のアフリカの地域に派遣するため、傘下の傭兵を秘密裏に移動したという。

 

 内戦再開へ懸念が高まる中、英米独仏など欧米各国は、ロシアの侵攻翌日の先月25日、リビア国営石油会社(NOC)への支援を表明。化石燃料生産・供給活動が、リビアの東西両陣営の対立により影響を受けることないよう求めた。NOCは7日、BPなどとリビアにおける生産再開を目指し交渉し、合意に至ったと発表した。一方で、化石燃料採掘の現場はトラブルに見舞われている。3日より、リビア最大の油田が一時、操業停止状態となった。原因は、武装勢力とみられる正体不明の男らが弁を締め上げたことだという。8日、本油田を取り仕切るNOCが操業再開を発表したものの、一連の騒動はリビアにおける化石燃料生産の不安定さを物語っている。

 

 リビアは政治的要因により、化石燃料の輸出量が未だ落ち込んでいる。原油輸出生産量は、カダフィ政権崩壊以前の4分の1程度で、天然ガス輸出量は、半分以下まで落ち込んでいる。リビアとって浮き上がるチャンスが到来するなか、また、沈んでいくのであろうか…。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。