世界第2位の銅産出国、ペルーで政治の混乱が続いている。政治腐敗への取り組みなどを巡り、急進左派のペドロ・カスティジョ大統領への批判が噴出し、大統領は政権発足わずか6カ月で3回目の内閣改造を迫られた。議会ではカスティジョ大統領への不信任の動きがくすぶり、絶大な支持を得た貧困層、先住民からも失望の声が上がっている。

 

 カスティジョ大統領は2月1日、新しい内閣の顔ぶれを発表した。19の閣僚ポストのうち10人が新顔。その中には首相、財務相など重要閣僚が含まれている。

 

 閣内のドタバタは直前の週末から起きていた。1月28日、アベリノ・グイジェン内務相が、腐敗や組織犯罪に厳しく取り組むための警察改革を、カスティジョ大統領が支援してくれないとの理由で辞任した。グイジェン氏は辞任した翌日、「政権には方向性が全くない」と話し、カスティジョ大統領を厳しく批判した。

 

 31日にはミルサ・バスケス首相が辞任した。カスティジョ大統領の政治腐敗排除への取り組みの甘さを痛烈に批判してのことだ。

 

 首相の辞任後、カスティジョ大統領は新内閣を発足させると表明したが、組閣に手間取り、発表は翌日までずれ込んだ。さらに発表直前にペドロ・フランケ財務相が辞任し、政権内の混乱ぶりを一段と印象付けた。

 

 辞任した3閣僚は共に、カスティジョ大統領のリーダーシップの欠如を批判し、大統領としての資質についての疑問を国民に投げかけた。

 

 カスティジョ大統領は元小学校教師。教員組合リーダーとしてストライキを主導するなどして全国的に名前が知られるようになった。2021年の大統領選挙で当選し、7月28日に大統領に就任したが、それ以前の政治、公職ポストの経験はない。

 

 就任直後、カスティジョ大統領は、強固なマルクス主義者のグイド・ベリド氏を首相に指名したが、議会の反発でベリド首相は約2カ月で辞任した。首相を引き継いだバスケス氏は女性の前国会議長。左派政党に所属しているが穏健派で、議会に配慮しての指名だった。そのベテラン女性政治家もカスティジョ大統領の元を去った。

 

 そして今回、3人目の首相として指名されたのは2021年の総選挙で極右政党から立候補して国会議員に初当選したエクトル・バレル氏。当選後、極右政党から別の政治グループに移籍し、「政党間をひらひらと飛び回る政治家」との異名がついている。

 

 カスティジョ大統領にしてみれば、自らの思想に近い極左から穏健派に首相を変えて、議会対策をしたものの、それでもだめなので、思い切り右寄りの首相を起用してみた、というところだ。しかし、議会や国民に「節操がない」と受け止められてしまうのは、避けられそうもない。

 

 ペルーはこれまで、大統領の交代は日常茶飯事だった。2020年には罷免や辞任により約1週間で3人の大統領が決まるという事態もあった。カスティジョ大統領にとって、議会は野党が優勢。ただ、野党は罷免に必要な3分の2までに達していないため、現時点で罷免の可能性は低いが、過去の動きをみれば、議会での不信任はそれほどハードルが高いものとは思えない。カスティジョ大統領は慣れない政界で、与党議員をつなぎ止めることと、野党議員をいさめることに腐心している。

 

 カスティジョ大統領にとって政界よりも怖いのが、一般国民の支持者離れだ。大統領選では天然資源の国有化などを実現し、平等な社会を目指すと訴えて、貧困層などからの支持を取り付けた。就任後はやや穏健な路線に修正したが、鉱山会社に対して新たな法人課税の導入、優遇税制の廃止を目指している。

 

 「天然資源から得た利益を、資本家ではなく国民に分配する」という方針は、カスティジョ大統領の政策の要である。しかし、政治の混乱でこれが実現しないことに、先住民らの不満が高まっている。

 

 ペルー南部、古都クスコから南西約200キロに位置するラス・バンバス銅鉱山は、世界の銅生産の約2%を占める世界でも有数の鉱山だが、2016年に操業を開始して以来、度々、銅鉱石を運ぶ道路が先住民らによって封鎖された。このため、採掘停止を余儀なくされる事態が繰り返し起きている。

 

 採掘された銅鉱石は、ラス・バンバスから南に600キロ以上離れたマタラニ港までトラックで運ばれる。鉱山に近い地域では道路は舗装されておらず、ひっきりなしに走る大型トラックが道路周辺に住む先住民の健康を蝕み、畑の農作物に被害をもたらす。

 

 銅鉱山の恩恵を全く受けることなく、生活が破壊されるだけという事態に、先住民たちは道路封鎖の実力行使に出ている。

 

 先住民たちはカスティジョ大統領の誕生を熱烈に歓迎し、鉱山会社から地元に多くの恩恵がもたらされるものと期待した。バスケス前首相も現地に入って、鉱山会社と先住民の補償協議の前進を目指した。2021年末には一部合意し、操業が再開されたが、その後、再び対立し、2022年1月末にまた、道路封鎖となった。

 

 ラス・バンバス銅鉱山は中国国営鉱山会社のオーストラリア子会社が所有している。

 

 自分たちの味方と思っていたカスティジョ大統領は、何もしてくれない。そう感じ始めた先住民たちは今、「カスティジョよ。ここに来い」と叫びながら拳を突き上げている。

 

 

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Taro Yanaka

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 趣味は世界を車で走ること。

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