タリバンが昨年8月にカーブルを制圧してから早5カ月、アフガニスタン情勢は未だ安定したとは言い難い。とりわけ最大の課題は、経済危機の打開である。アフガニスタンは、過去のタリバン統治下からの「解放」後、経済成長を続けてきたとされるが、国家財政の多くを援助に頼る状況が続いてた。この援助依存体質が一向に改善される見込みもないなか、タリバンが電撃的に権力を奪取したことで、タリバン政権を承認することができない各国からの援助は停止され、国民の多くが物資欠乏による塗炭の苦しみを味わされている。なけなしの金を得るため子供を売る、また腎臓など臓器を売ることは日常茶飯事だということだ。

 

 一方、アフガニスタンには、こうした窮状にあえぐ国民に仕事と富もたらしうる豊富な地下資源が眠っているが、タリバンの拙劣な経済運営で放置されているに等しい状況である。

 

 アフガニスタンには、金などの貴金属から石炭といった化石燃料まで幅広い鉱物資源の存在が確認されている。例えば、筆者は2018年、駐日アフガニスタン大使館の担当者より、同国の鉱物の中でも、滑石(タルク)が注目されることになるだろうと聞いたことがある。

 

 大理石など石材類も豊富で、先月も、パキスタンと国境を接する南東部の州で鉱床が発見されたと報じられた。タリバンの権力掌握に伴う混乱、国際社会からの孤立により事業環境は悪化していると言わざるを得ない。

 

 南部ヘルマンド州でオニキス採掘事業を営む人物は、米メディアの取材に対し、タリバンの通行止めによる出荷量の減少、また、新たな税の導入などにより、鉱夫に賃金を払ったら手元には何も残らないほど収益が悪化していると明かした。

 

 欧米諸国が援助の停止、海外資産の凍結でタリバンに兵糧攻めを仕掛ける中、頼みの綱の一つが中国の支援だ。タリバン報道官は最近、中国が国際社会に政権承認の流れを作ることを期待すると述べた。中国側も、異様と言えるタリバンへの傾斜ぶりを見せていた。昨年7月末、タリバンが全土を掌握する公算が高まると、いち早く外相王毅らはタリバン幹部と会談を実施した。

 

 中国は、前政権時より「一帯一路」の一環として、東西の十字路たるアフガニスタンへの進出を続けてきた。では、中国がアフガニスタンの資源を手中に収めるかというと、事はそう単純には進まない。専門家は、中国が手にした採掘権などはごく僅かで、安全上の懸念や、国際社会の反応を注視し二の足を踏んでいるという。実際、中国はタリバンとの蜜月ぶりを国際社会に見せつけた一方で、未だ正式な政権承認は控えている。

 

 また、中国がアフガニスタンを手中に収めようとするのを座視しない近隣の大国、インドも動きを見せている。アフガニスタンは、仮想敵国・パキスタンの背後というインドにとって重要な位置にあり、インドが主導する南アジア地域協力連合(SAARC)の加盟国でもある。インド首相モディは27日、中央アジア諸国とのオンラインサミットを主催した。中国が同様の取り組みを実施した僅か2日後ということで、習近平への当てつけともとれるサミットであった。

 

 その中で、アフガニスタンの安定に向けたインドと中央アジア諸国の協力体制構築についても話し合われたということだ。中央アジアもまた、自国に波及し得るアフガニスタン情勢の悪化、中国の勢力伸長について、インドと懸念を共有している。さらに、インドはいわゆるワクチン外交の場面でも中国と張り合い、ミャンマーなどにワクチンを提供してきたが、29日、アフガニスタンに3トンもの医療物品を提供した。

 

 当然、その資源も無視するはずはない。9年も前にインドメディアは、アフガニスタンの資源がインド企業に巨額の利益をもたらすだろうと論じていた。インドは、前述の中国の躊躇を見逃さないだろう。

 

 アフガニスタン戦争を開始したアメリカなど西洋諸国が同国を見捨て、未だ混乱を収束させる有効な手立てを示せない中、ライバルの中国、そしてそれに対抗する国々による勢力争い、資源争奪戦がアフガニスタンを舞台に始まっていると言える。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。