ラテンアメリカの左傾化の流れは2022年も続きそうだ。5月にコロンビアで、10月にはブラジルで大統領選が予定されているが、現時点で左派系候補が優勢だと伝えられている。ラテンアメリカの左傾化は、この地で影響力を増す中国との関係を一段と強めることにつながりかねず、西側の産業界にとっては、これまで以上にラテンアメリカの政治情勢から目が離せない年となる。

 

 左傾化の流れは2018年、メキシコでアンドレス・ロペスオブラドール大統領が誕生したことに始まる。大統領の支持基盤は低所得者層で、旧態依然とした中道左派を飛び出して新興左派旋風を吹かせての当選だった。2019年にはパナマで中道左派のラウレンティノ・コルティソ政権が誕生。2020年にはボリビアで、反米左派のエボ・モラレス前大統領の腹心、ルイス・アルセ氏が大統領に当選した。不正選挙疑惑でモラレス前大統領が亡命し、約1年間、右派暫定政権が続く中での大統領選だったが、ボリビアでの急進左派の強さを世界に見せ付け、リチウム資源の争奪戦の渦中にある産業界を震撼させた。

 

 2021年はエクアドル、ペルー、ホンジュラス、チリで大統領選が行われたが、エクアドル以外は左派が勝利した。

 

 ペルーのペドロ・カスティジョ大統領は元小学校教師で、資源やインフラの国有化を政策の柱に掲げる。マルクス主義者を首相(後に辞任)に任命するほどの急進左派で、ペルーの極左武装組織「センデロ・ルミノソ(輝ける道)」とのつながりを疑う地元メディアもある。

 

 11月のホンジュラス大統領選で当選したシオマラ・カストロ氏は1月27日に大統領に就任する。2009年にクーデターで失脚したセラヤ元大統領の妻で、親中派である。ホンジュラスは台湾と外交関係があり、カストロ氏は選挙戦で台湾との断交を主張していたことから、就任後のカストロ氏の判断が注目される。

 

 12月の決選投票でチリの次期大統領に決まったガブリエル・ボリッチ下院議員は3月11日に就任予定だ。元学生運動のリーダーで、貧富の格差是正のため最低賃金の引き上げや、鉱山会社や富裕層に対する増税などの政策を掲げる。

 

 2022年は2月にコスタリカで、5月にコロンビアで、10月にブラジルで大統領選が行われる。特にコロンビアとブラジルの大統領選は、ラテンアメリカ内の国の規模からしても大きな焦点になっており、これまでのラテンアメリカの左傾化の振り子の動きが頂点に達する年になる、との見方が主流だ。

 

 コロンビア大統領選に名乗りをあげているのは現時点で60人以上。候補者乱立の激しい選挙戦になることが予想されるが、コロンビアのニュース週刊誌「セマナ」の12月の世論調査では支持率が6%を超えたのは、わずか4人。この中で圧倒的な強さを見せ付けているのは急進左派の反体制上院議員、グスタボ・ペトロ氏だ。支持率は25.4%で、2位の11%を大きく上回っている。昨年の秋以降、支持を拡大し続けており、数字だけ見るとペトロ氏は波に乗っている。

 

 ペトロ氏はエコノミストで、首都ボゴタの元市長。1980年代にはコロンビアの反政府組織「M-19」のゲリラだった。前回(2018年)の大統領選では決選投票に残り、41%を超える得票し、イバン・デュケ大統領を苦しめた。

 

 ペトロ氏の人気の背景にあるのは2021年4月以降、コロンビア国内で広がった市民による反政府デモだ。新型コロナ感染拡大の影響でコロンビアは深刻な経済危機に見舞われた。2020年のGDP(国内総生産)はこの50年で最悪のマイナス6.8%となり、デュケ政権は財政赤字削減のため、付加価値税の引き上げや所得税の対象範囲を拡大することなどを発表した。新型コロナの経済対策の後に来る、財政再建のための世界で初めての試みだと言われたが、コロンビア国民はこれに強く反発した。

 

 各地でデモを繰り返し、主要道路を封鎖するなどの抗議行動に出た。中流層が「このままでは自分たちも貧困層に転落する」との危機感を抱き、デモに合流した。

 

 デュケ政権はデモを力で抑え込もうとし、軍や警察が各地でデモ隊と衝突した。コロンビアでは長く続いた反政府ゲリラとの内戦の影響で軍や警察は力を持っている。ゲリラを押さえつけるノリでデモ隊を痛めつけたことから国際的な反発をかった。

 

 政府に対する市民の怒りが、ペトロ氏の支持拡大につながっているのは間違いなく、大統領選は反政府デモの延長線上で行われることになる。2021年のチリの大統領選と同じ構図で、ラテンアメリカの左傾化のひとつのパターンともいえる。

 

 ブラジルは、再選を目指す現職のジャイール・ボルソナロ大統領と、中道左派のルイス・ルラ元大統領の事実上の一騎打ちとなりそうだ。

 

 極右のボルソナロ大統領は「ブラジルのトランプ」と呼ばれるが、新型コロナ対策の「失敗」など国民の反発が強く、12月の世論調査ではルラ元大統領の支持率がボルソナロ大統領を大きく上回っている。ルナ元大統領は2003~2010年まで大統領を務めたが、収賄罪などで有罪判決を受けた。ところが2021年になって最高裁がこの判決を無効としたため、大統領選に戻ってきた。

 

 コロンビアもブラジルも中間層の動向が選挙の流れを決めるとみられ、経済悪化へのはけ口が左傾化の原動力となりそうだ。

 

 

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Taro Yanaka

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 趣味は世界を車で走ること。

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