年の瀬も迫る中、10年目を迎えたシリアの内戦は未だ継続中だ。戦闘が行われている地域はごくわずかで、アサド政権が国土の大半を手中に収める中、クルド勢力、トルコ傘下勢力が割拠する、分断が固定化された状況だ。戦闘が収まっていることで人道危機が鳴りを潜める中、環境問題が密かに進行している。その一つが廃棄物問題である。

 

 元来、シリアは他の発展途上国同様、廃棄物処理のあり方については問題視されていた。アサド政権は、廃棄物回収、処理システムの構築に失敗し、産業廃棄物、とりわけ重金属の流出は危機的水準にあったとされる。国連環境計画(UNEP)では、2010年、シリアの水銀廃棄物問題が議論されたこともある。UNEPの資料によると、当時シリアではゴミの分別さえなされていなかった。それが内戦による行政サービスの停止でさらに深刻化したというわけである。内戦によって生じたさらなる問題は、外国の廃棄物の流入だ。

 

 シリアは今、国際的に問題となっている電子廃棄物の終着点となりつつあるという。シリアといえば、その地理的条件によりかつては文明の十字路であったが、現在では密輸の経路となっている。ヒズボラの資金源ともなっている薬物がやり玉にあがることが多いが、捨てやすいところに集まる廃棄物もまた流入する。シリア税関当局は、シリアが電子廃棄物の集積場になりつつあると警告した。シリアには密輸業者を通じて、輸送しやすいスマホ、コンピューターの廃棄物が集まるという。そして、その一部は地元の市場で売られている。さらに、新品として売られているものは先進国で廃棄された中古品が多いという。市場で店を営む人間は、メディアの取材に「市場に流入する全ての電子機器は中古であり、証明書も何もない。平均価格のうちに買っておき、新品並みに高騰したら売り出す」と話した。こうして、シリアには、市場での需要から、中古品からジャンクまで多種多様な廃棄物が流入するようになっている。鉛、水銀、バリウム、カドミウムのような電子機器の製造過程で使われる有毒物質も、それら廃棄物から土壌など環境に流出し、健康被害が懸念されるということである。

 

 シリアは、このような廃棄物の流入にただ手をこまねいているしかないのか。アサド政権は、イラクとの国境地帯は管理を強化しつつあり、クルド勢力もそれは同様だ。問題はトルコとの国境地帯である。トルコは、周知の通り、シリア領内で軍事作戦を行い、国境地帯を占領下においている。アサド政権、クルド勢力とも、トルコ側でなされることを止めようがない。トルコはよく指摘されるように、EUのゴミ捨て場として多くの廃棄物の行きつく先となっている。それが、占領下のシリアにたらい回しにされることに何の不思議もない。内戦がいつ正式に終結するのか見当もつかない状況であるが、終結しても、廃棄物、汚染との戦いが待っている。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。