高純度アルミWorld2021 #18 未知の発見〜潜水機器の進化、海底のゴミ」からの続き

 

 様々な適正材質を組み合わせ、ロケットや人工衛星などの宇宙関連機器、そして、多くの技術を結集させた深海での潜水調査船。宇宙空間では宇宙ゴミ(スペースデブリ)に対応する企業が各国と取り組みを行っているが、しんかい6500は、海洋でのゴミ問題の研究を行っている。

 

 探査には、世界航海など長期間、長時間を必要とする。そのしんかい6500の心臓部の主蓄電池は、充電可能なリチウムイオン電池を2004年から使用している。それまでは酸化銀亜鉛電池であった。

 

 海の中に空気がないためエンジンが使用できないことと、航海終了後、夜間に充電可能なため航海作業を効率化しており、ここにも高純度アルミニウム箔の活躍が見られる。軽量で腐食しないアルミの材質が重宝されることはもちろんであるが、今後も過酷な環境下で、高純度アルミを用いたさらなる高性能化が期待される。

 

 

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出典:JAMSTEC 主蓄電池(油漬均圧型リチウムイオン電池)※夜間に充電可能

 

 

 大量のプラゴミ、マイクロプラスチック問題であるが、現在、プラスウェーデンの研究者などがバクテリア、つまり海、土壌に生息する微生物がプラスチックを食べるように進化しているとした研究結果を発表し、世界中で話題となっている。しかし毎年数百万トンのプラごみの投棄には到底微生物の力では追いつかなく、プラスチックの分解には400年かかると言われており、未知の分解方法の解明もその量とスピードには限界があろう。

 

 

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出典:JAMSTEC 「しんかい6500」コックピット

 

 

 2021年8月12日、フィリピン南部・ミンダナオ島の沖合を震源としたM7.2の大地震が起き、12月16日から17日にかけフィリピン南部を台風22号が直撃した。台風や竜巻、ハリケーンなどで多くの死者と被害が毎日のように世界で起こってきており地球環境の破壊や温暖化などが指摘されている。

 

 地球環境が激変している中での未知の深海などの生物の発見や深海環境の探査は、一時的な目の前の経済的な損失の抑制などの目的のみならず、生物にとって重要な研究が行われ、アルミはそれらを材質の多くの特性から支えている。

 

 日本でも2021年 9 月下旬以降、北海道南東部太平洋沿岸で赤潮が発生、蝦夷バフンウニ、秋サケの大量死が起こった。セリフォルミスの赤潮発生は国内初といい、低い海水温でも海洋環境の変化によって北海道でも発生することが確認された。一見遠い世界に思える研究や調査は、身近な魚介類や食品への影響も目に見える形で現れた。海洋環境の変化も、プラごみを含む世界の経済活動とも繋がり合い複合的に作用し合っていると考えられる。

 

 その中で、興味深い生物の存在の研究結果が発表された。前述の実業家前澤氏が、次に行きたい場所として挙げた世界最深と言われるマリアナ海溝の深海で、アルミ製のスーツをまとったエビが生息しているという。

 

 水深が深くなるにつれ、物のみならず生物にも水圧などで大きな影響が出る。地上で非常に硬い殻を持つ甲殻類などの結晶性炭酸カルシウムは、炭酸塩補償深度と呼ばれる水深約5000mから溶け始めるため、貝類、甲殻類は少なくなるが、さらに深い水深8000m超のマリアナ海溝チャレンジャー海淵で、カイコウオオソコエビの殻に興味深いアルミの存在が明らかにされた。

 

 

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出典:Plos Oneジャーナル「カイコウオオソコエビ」

 

 

 カイコウオオソコエビの殻から、結晶性炭酸カルシウム、そしてアルミニウムが含まれていた。アルミニウムは海水には含まれず岩石の中に含有するが“アルミスーツ”を作るため、エビが岩石からアルミニウムを取り出したのである。弱アルカリ性の海洋環境で、アルミニウムはアルミゲルになる。カイコウオオソコエビの結晶性炭酸カルシウムを守ため、表面をスーツのようにアルミで保護するエビが存在することは興味深い。アルミゲルは、これまで胃の粘膜などの保護成分、頭痛薬、風邪薬に使われていた。

 

 水温が0度に近い深海で、特別な薬剤も高温化でもなくアルミを抽出した有孔虫のエコシステムとも呼べるサスティナブルなエビの存在は、生物の神秘と今後の更なる研究の可能性を感じさせるものであろう。

 

→“高純度アルミWorld2021#20”へ続く

 

出典:

 ・https://www.jamstec.go.jp/shinkai6500/

 ・https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0206710

 

 

A L U C O

 流通業界に身を置くこと20年、中東、ヨーロッパの大学院に留学した経験から、エネルギー産業への関心が高い。趣味はスキューバダイビング、自然観察、ワイン(ソムリエ)。