高純度アルミWorld2021 #17 宇宙ゴミ問題対策とアルミ…地球の未知の領域、深海」からの続き

 

 

 日本の有人潜水調査船の代表格である「しんかい6500」は、文字通り深度6500mまでの潜水が可能な調査船である。1989年に三菱重工業(株)の神戸造船所で完成して以来32年、通算1600回近い数の潜航を行う中、無事故で、日本を含む太平洋、大西洋、インド洋など世界中で海底地形、地質、深海生物の調査を行ってきた。宇宙と揶揄されることも多い過酷な深海の世界での航海には、2003年3月に毛利宇宙飛行士も、南西諸島にて潜航調査(第733回潜航)を行なった。

 

 

写真

 出典:JAMSTEC HP             耐圧殻

 

 

 世界で航海中の大深度有人潜水調査船は、建造年順にアルビン(米国)、ノチール(仏)、ミールI&II(ロシア) 、しんかい6500(日本)、コンスル(ロシア)、蛟竜号(中国)など7隻のみである。2012年には、船尾の主推進装置を旋回式大型1台から固定式中型2台への変更で回頭性能の向上、そして水平スラスタを後部に1台増設し、プロペラモーターの変更で加速・制動性能の向上を図り、2016年には耐圧殻内の改修工事を行なっている。コックピット内船員3名の観察環境の改善を図るなど、年々改造を重ねている。

 

 「しんかい6500」のコックピットは、心臓部、球内径2mの球(耐圧殻)の中にある。肉厚73.5mmのチタン合金製で、軽くて丈夫であり、球の真球度は1.004、外径は±2mm以下の製作精度で製造されているという。

 

 また、水深6500mの水圧では内径が5〜6mmも縮むため、耐圧殻内の機器は、直接壁面に取り付けられない。そこで、バードゲージというアルミ製のフレームに取り付けられ、耐圧殻壁面との間に縮み台が作られている。直接海底を観察するのに重要な覗き窓3個は、厚さ138mmのメタクリル樹脂などでできている。

 

 そして、観測装備として長期的に海底を観測するため、海底に装置を運び持ち帰るなどするカメラの設置、回収作業が重要となるが、船体の前方に取り付けられた「サンプルバスケット(採集物入れ)」は、アルミ製である。特に可動式のこのバスケット二基は、海底の過酷な特殊環境に適応でき、強度も必要である。前方左右に一つずつ装備し搭載可能重量は水深にもよるがそれぞれ100kgfという。特に高純度アルミは単位重量あたりの強度(比強度)が大きく産業ロボット部品など強度に優れていることが特長である。

 

 

図

 出典:JAMSTEC                        覗き窓(3個)

 

 

 しんかい6500の実績として、2006年の調査では存在しなかった亀裂が2011年の東日本大震災後、震源域水深5350mで約80メートルもの巨大な海底亀裂を確認したこと、2013年の世界一周航海でのブラジル沖での世界最深の鯨骨生物群集の発見も記憶に新しい。インド洋の巨大イカ、深海魚の新種発見などは子供達の図鑑にも大きく掲載されるなど非常に多い。カリブ海では、光ケーブルを使って約400度の熱水が湧く場所からの衛星生中継に成功した。

 

 そして2019年、房総半島沖6000mの海底で、大量のレジ袋や食品包装などのプラゴミ、直径5mm以下のマイクロプラスチックを確認した。黒潮によって運ばれた大量のごみが、深海の海の底に集積する実態を捉えたことは、地球上の目に見える場所、つまり海岸のプラごみの山や、鯨の胃袋中の大量のプラごみを確認することよりもより衝撃の実績となったであろう。そして現在、しんかい6500は、生態系に深刻な影響を及ぼす海洋プラスチックによるごみ問題においても重要な研究の一端を担っている。

 

→ “高純度アルミWorld2021#19”へ続く

 

出典:

 ・https://www.jamstec.go.jp/shinkai6500/

 ・https://www.jstage.jst.go.jp/article/hpi/57/3/57_129/_pdf

 

 

A L U C O

 流通業界に身を置くこと20年、中東、ヨーロッパの大学院に留学した経験から、エネルギー産業への関心が高い。趣味はスキューバダイビング、自然観察、ワイン(ソムリエ)。