高純度アルミWorld2021#15 スクラップから再生技術で高純度アルミ、自動車生産へ」からの続き

 

  2021年12月20日、実業家の前澤友作氏、同氏関連会社役員の平野陽三氏の2人が、宇宙飛行士のアレクサンダー・ミシュルキンと共に、帰還した。着陸の成功が発表され、日本時間13時頃、黒焦げのカプセルの映像が配信された。着陸は下記の通りであった。

 

 11時00分~ 軌道離脱噴射~カプセル分離~大気圏突入

 12時13分~ パラシュート展開~カザフスタンに着陸

 

 12月8日午後、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から出発し、日本時間の同日午後10時40分ごろに国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングし、12日間滞在した。このISSでの日本の民間人の滞在は、1990年12月に当時のTBS記者秋山豊寛氏のソユーズの乗船と宇宙ステーション「ミール」に滞在して以来である。その後、毛利衛宇宙飛行士が続き、宇宙に行った日本人は合計14人となった。

 

 前澤氏は1998年、(有)スタート・トゥデイ創立、2004年ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」運営開始、2019年9月「ZOZO」がヤフー傘下に入り今に至るが、変わらず宇宙へ行く夢を持ち続けた。欧州、米国を初め世界でも話題となり、ラ・バングァルディア(スペイン誌)も「大学卒などの学歴はなくても、宇宙のパーフェクトな旅行顧客となった46歳の同氏は、11月時点の日本の長者番付で30位、資産約17億ユーロ(2176億円)で、経済的に本宇宙旅行には十分以上であった」と報じた。同時に2023年の月旅行を予約済みだとも報道されている。

 

 前澤氏は、ISSでの滞在中、一般募集の実験や撮影など多くの試みを行い、Youtubeを用いてインターネットで配信した。その圧巻の地球の美しさはさることながら、先日iphoneのタイムプラスを用いて地球一周の90分間の動画の美しさにも目を見張った。トイレやお茶などの日常の話題や身近な機器などを使用した宇宙滞在の多くの映像は、子供から大人まで宇宙を身近に感じさせ、ワクワクをもたらすものとなっている。

 

 そして、これら配信などを通して、ISSの画像や人口衛星の様子が映し出され、宇宙空間がどのような状況であるか、ロケット技術や搭載機器などの進化などについての露出や報道が増加してきている。更に、月旅行が現実のものとして報道される中、来年2022年の新年を迎えると、既にその旅の予定がすぐ翌年の2023年に迫っていることも実感させられる。

 

 

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出典:石敏鐵工株式会社

 

 

 宇宙の映像の中でよくみられる人工衛星の金色であるが、人工衛星を包むように鮮やかに浮かび上がっている。この金色部分は「サーマルブランケット」で、外部からの人工衛星の熱を遮断する重要な役割を果たす。人工衛星の内部には様々な機械が搭載されているが、それら機器の発熱で内部温度は上昇するため、内部の熱を宇宙空間に放熱するなどの様々な工夫がなされている。

 

 人工衛星の外部は太陽の光を直接受け100度以上にもなる部分と、日陰はマイナス100度以下という過酷な条件となり、サーマルブランケットによって太陽熱を内部に影響を与えないようにしているのである。金色は一番外側のポリイミドフィルムの色である。黄色をしたポリイミド材料などの裏面にアルミニウムなどを蒸着させることで、金色に輝いて見えるという。薄いフィルムとスペーサを幾層にも重ねて層と層の間に空間を作り、断熱効果を高めている。

 

 何層、どの素材のフィルムを使用するかは各衛星の熱設計によって異なるが、アルミニウムは温度に強い特性から宇宙には欠かせない材料である。MLI多層断熱材(Multi Layer Insulation)の金色はアルミの象徴でもある。尚、ポリイミド以外の材料を使った黒や白のサーマルブランケットもあり、1つの衛星でも、複数のサーマルブランケットを使っている場合もあり、素材の駆使には高い技術力を要することは言うまでもない。

 

 石敏鐵工(株)は、2020年、一体型CubeSatフレームを開発した。世界の企業で宇宙産業への参入が進む中で、差別化を進めるとしている。モノコック一体型MBFは、「分割型」と比べ部品点数を削減した一体型フレームで、打ち上げ時の振動によるボルトの緩み、ゆがみ、各部材質の違い、接合部熱伝導トラブルの減少が可能という。

 

 

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出典:JAXA ISSの多層断熱材MLI        アルミを貼ったバンパ

 

 

 この度、前澤氏らが滞在したISSであるが、軌道が330~400kmと低く、周囲に浮遊する原子状酸素により断熱材の劣化が激しいため、ベータクロスと いうガラス繊維にアルミ蒸着したものを使っているという。表面はテフロンでコーティングされている。与圧モジュールには、アルミ素材のデブリバンパが取り付けられている。

 

 また交換可能なアルミ製のバンパで宇宙のゴミ(スペースデブリ)の貫通を防止している。ISSでは、滞在する宇宙飛行士らの生命をスペースデブリ衝突(最大約15km/s)の脅威から守るため、宇宙船壁(与圧壁)の外側に10cm程度の間隙を設けて薄いアルミ合金の板を配置している。ホイップル・バンパーと呼ばれる高純度なアルミ板を二重にして防護壁とする防護システムである。

 

 今後月旅行への宇宙開発にも注目が集まる中、このようなアルミニウムの特性は、軽量化、資源循環に優れた素材として注目され、リサイクル可能かつ大きな温度変化の脅威や宇宙ゴミから守る素材としても宇宙で特異な特徴を持つ存在である。日本や世界で今後も関連開発技術を発展、反映させ、宇宙での高純度アルミなど高品質なアルミニウムを用いた成果が期待されている。

 

 そして前述の前澤氏が、次に挑みたい場所と語ったのは深海という。

 

→“高純度アルミWorld2021#17”へ続く

 

 

出典:

 ・https://humans-in-space.jaxa.jp/iss/flight/detail/001920.html

 ・https://iss.jaxa.jp/iss/crew/doc04.html

 ・https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/69.html

 ・http://www.ishitoshi.co.jp/space/

 ・https://iss.jaxa.jp/iss_faq/env/env_005.html

 

 

A L U C O

 流通業界に身を置くこと20年、中東、ヨーロッパの大学院に留学した経験から、エネルギー産業への関心が高い。趣味はスキューバダイビング、自然観察、ワイン(ソムリエ)。