スターバックスに代表される米国のコーヒーチェーンが世界の定番になって久しい。人類が長く親しんできたコーヒーに少し個性を持たせてブランド化したことで、新たなビッグ産業が生まれた。現代版アメリカンドリームの代表例だが、この現象が炭酸飲料の分野でも起きるかもしれない。

 

 コーラなどの炭酸飲料にシロップやピューレ、フルーツ、クリームなどを混ぜて、顧客それぞれの好みに合わせた飲料を提供するソーダ・ショップが、米国でじわりじわりと店舗網を拡大している。炭酸飲料も昔からの米国の「顔」であるが、新たなイメージで商機をつかんだ。「ソーダ版スタバ」は、まだ胎動ではあるが、米国のビジネスの面白さを感じさせる動きとして注目され始めた。

 

 ソーダ・ショップの発祥はユタ州だ。2010年に「Swing」が出店して以降、「Sodalicious」「Fiiz」「Twisted Sugar」などというチェーンが続々、参入した。ユタ州内の地域によっては、車で数分の距離に10店ものソーダ・ショップが存在する場所もあるという。ソーダ・ショップは10年ほどで地域に定着した。

 

 ユタ州は、人口の60%以上がモルモン教徒であることで知られる。モルモン教徒は、酒類はもちろんのこと、カフェインの入ったコーヒーやお茶などを口にしない。宗教的な決まり事だ。そのため炭酸飲料に需要が集中する傾向にあった。

 

 そのソーダ・ショップはユタ州の外にも広がっている。ユタ州に隣接するコロラド州やアイダホ州、ネバダ州、アリゾナ州などへの出店が相次いだ。特にアリゾナ州などロッキー山脈の西側にある「マウンテン・ウエスト」での進出は著しく、新規ビジネスの象徴的な存在であり、新しい食文化になっている。

 

 また、オクラホマ州やテキサス州、フロリダ州、サウスダコタ州など南部にも出店を始めている。

 

 新型コロナの感染拡大で外食産業が大きなダメージを受けた中でも、ソーダ・ショップは好調を保ち続けた。多くがドライブスルー店であったことから、コロナ規制の中でも通常に近い営業を継続できた。外出を控えてストレスを抱えた家族連れが、息抜きとしてソーダ・ショップに訪れる姿が絶え間なく見られた。

 

 この好調を受けてソーダ・ショップはさらなる出店攻勢に出る。ニューヨーク・タイムズ紙などによると、従業員が700人規模になった「Swing」は今後、年間10~15の出店計画を進める方針で、全米規模で200店にまで拡大させることを目標としている。現在、25店の「Sodalicious」は今後3年で、店舗を倍増させる。

 

 新しく出店が決まった地域では、地元のローカルメディアがソーダ・ショップについてニュースで取り上げるなど、注目度は高い。

 

 人気の秘密はメニューの多さと、自由に組み合わせて自分のソーダが作れることだ。まず、「コカ・コーラ」や「スプライト」「ペプシ・コーラ」「ドクター・ペッパー」「7アップ」「マウンテン・デュー」などのベースとなる炭酸飲料を選ぶ。そこに何の味を足すかは、顧客次第だ。

 

 「Swing」の場合、「マウンテン・デュー」にマンゴピューレとイチゴピューレを入れると、「Bloody Wild」という名前の商品で提供される。

 

 メニューの種類や価格はチェーンや店舗によって異なる場合もあるが、600種類近い味が楽しめる店もある。追加のフレーバーは1個25セント、ピューレは1個50セント。16オンス(480ミリリットル)のドリンクにフレーバーやピューレを足しても、種類によっては2ドル台で買うことができる。サプライチェーンの混乱とインフレによる物価高に苦しむ米国民にとって、安く楽しめることは大きな魅力だ。

 

 健康志向の高まりを受けて、米国の炭酸飲料の消費量は減少傾向が続いている。1人の当たりの年間消費量は、2000年が平均で約200リットルだったが、現在は約143リットルとなった。

 

 肥満防止のため、フィラデルフィア(ペンシルベニア州)やシアトル(ワシントン州)、バークレー(カリフォルニア州)では、炭酸飲料に特別な税金を課してしている。また、ニューヨーク(ニューヨーク州)は、大量摂取を防ぐため、販売時の分量制限を設けようとした。ソーダにとって逆風が吹いていることは確かであるが、米国の懐は深い。ソーダを「敵視」しない市民の需要は根強く、そこにビッグビジネスの芽が姿を現した。

 

 今では世界に3万店舗以上あるスターバックスは1971年、シアトルのエリオット湾に面したパイク・プレイス・マーケットで産声をあげた。1987年には20店舗にも満たなかったが1992年には100店を超えた。ビジネスの拡大は集中的に起きる。

 

 ソーダ・ショップチェーンの経営者の頭の中には、スターバックスの姿がある。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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