バイデン政権が目指すイランとの核合意再建。先月30日より交渉が再開されたが、イランは制裁解除要求の一辺倒で、交渉は早々に暗礁に乗り上げた感がある。アメリカは核合意を一方的に放棄したトランプ政権からバイデン政権に交代した一方で、イランは強硬派のライシに政権交代し、両国で強硬派・穏健派が入れ替わった構図で、交渉環境は厳しいままである。ライシは、動揺する神権体制引き締めのため指導者として選ばれたのであり、国内向けに強気の姿勢を見せなければならない。こうした中、イラン核合意交渉の行き詰まりが伝えられと、市場は素早く反応し、既に紙くずに等しいイランリヤルが更に暴落する事態となっている。筆者がイランを訪問した2019年の時は1円150リヤル程であったが、この度の暴落では370リヤルほどまで下げている。通貨暴落は核合意交渉を進展させる要素になり得るだろうか。

 

 イラン国民は長きに渡るリヤル安による輸入品高騰に耐え忍んできたが、ここにきてさらなる通貨暴落とそれに伴う生活苦に喘いでいる。反体制勢力・人民の殉教者は、イランメディアが報じない抗議運動を伝えている。イラン国民の生活苦への怒りは、イラン最高指導部に対する核合意復帰への圧力となる。1980年のイラン革命も貧富の格差、生活苦がその原動力となった。パフラヴィ王室から権力を簒奪した神権体制は、宗教よりも地方へのインフラ整備など庶民の生活向上に努めたことで権力を盤石なものとした。

 

 2019年11月から翌6月あたりまで継続した政権への抗議運動では、最高指導者への罵倒が公然となされるなど指導者たちを震撼させた。このような抗議運動が再燃すれば、体制の存続を揺るがす。

 

 イラン神権体制は、民生の悪化が臨界点に達しないためにも、制裁破りに腐心してきた。最近、急速に傾斜を強めているのが中国だ。イランの主要な輸出品である原油の輸出先として、アメリカと対立し無限ともいえる需要がある中国は、またとないお得意様である。中国としても、アメリカの制裁を恐れていないわけではないが、原油高の中で安い原油を頼りにしている。イランは、欧米中心の包囲網に対抗するため、中国中心の枠組みにも参加する。9月17日、イランは上海協力機構の一員となることが正式に認められた。

 

 中国は、イランを対等なパートナーとみなしているかといえば疑問で、「一帯一路」で進出する各国同様、資源、交通路、港湾を狙っているのではないかとみられる。イラン南西部の経済特区・チャーバハール港には既に、中国が浸透している。中国の進出に対する懸念は現地人からも聞かれた。イランは、19世紀後半、英露等に国内の権益を蚕食された歴史があり、国民は、「一帯一路」各国で起きている中国への権益売り渡しのような事態には強い拒否感をもっている。アメリカが、イラン産石油の輸入に関わる中国政府高官への制裁を辞さず、イランの中国への懸念も利用しつつ、両国の間にたくみにくさびを打ち込むことが交渉行き詰まりを打開するカギになりそうだ。

 

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指している。