南米チリのアタカマ砂漠が「衣料品の墓場」になっている。チリは中古衣料品やファストファッションの売れ残りなどの一大消費地となっているが、そのチリでもさばき切れなかった衣料品が砂漠に捨てられている。衣料品に使用されている繊維は化学処理がされているため生物分解されるのに200年かかるとの指摘もあり、環境破壊につながりかねない。

 

 AFP通信は、チリ北部の都市イキケ近郊のアタカマ砂漠に捨てられた膨大な衣料品の山の様子を伝えた。ジーンズやTシャツ、セーターなど様々な衣料品が、砂漠の砂を広く覆っており、衣料品廃棄物の埋め立て処理場となっている。まだ着られる衣料品を廃棄物の山から探すベネズエラからの難民の姿もある。

 

 配信された記事や写真は欧米のメディアに広く掲載され、ソーシャルメディアなどでも関心が高まった。国連の試算では、世界の二酸化炭素排出量のうち8~10%がファッション産業に起因するとされ、英グラスゴーで開かれた第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)でも、アパレル関係者から業界での取り組み強化を求める声があがっていたため、アタカマ砂漠のニュースはタイムリーな報道として幅広い人々の耳目を集めた。

 

 イキケは自由貿易地域に指定されており、税制面で優遇されていることから、チリでも重要な輸出入の拠点だ。中国やバングラデシュで製造されたファストファッションなどの衣料品は、主に欧米やアジアで販売されるが、中古衣料品や売れ残り品の多くはイキケ向かって来る。

 

 チリは南米の富裕国だ。ファッション関連用品の消費も旺盛だ。また、これらの衣料品はイキケを起点にラテンアメリカの他の国に輸送(密輸も含め)される。イキケで陸揚げされる衣料品は年間約5万9000トン。約2万トンはイキケから約1800キロ南の首都サンチャゴや他国に流れるが、約3万9000トンはさばき切れず、アタカマ砂漠に投棄されるという。自由貿易地域の利便性が、結果的にアタカマ砂漠への衣料品投棄を加速させていることになる。

 

 地元では、投棄された衣料品を利用して絶縁パネルを製造するリサイクル会社もある。リサイクル会社の創業者はAFP通信の取材に対し、「衣料品の生地は化学処理などがされているため、地元自治体は埋め立て処理のごみとして受け付けてくれない」と話し、砂漠への大量の不法投棄の背景を説明している。

 

 国連の調査によるとファストファッションがアパレル業界の中心的な存在となったことで、世界の衣料品の生産は2000年から2014年の間で2倍に膨れ上がった。ファストファッションを巡っては、児童労働や工場の安全性などが問題視され、製造過程の見直しなどを迫られた。そして今、環境問題でも矢面に立たされている。

 

 大量消費にかなう大量生産は、大量の温暖化ガスを排出するとともに、大量の水を使用する。そして大量の売れ残りを生む。アタカマ砂漠は、世界にあふれるファストファッションの商品が最後に行き着く「墓場」なのだ。

 

 一方でラテンアメリカは、新型コロナ後のファッション産業の拠点として期待が高まる地域でもある。

 

 米国のアパレル製品の輸入先は中国が40%近くを占めてトップだが、メキシコやホンジュラス、エルサルバドルも重要な供給地である。商品の区分けによってはラテンアメリカの国々が5~10位に入ってくる。米国との距離の近さが地の利となっているが、中国との経済対立や新型コロナによるサプライチェーンの混乱もあり、米国のアパレル業界はラテンアメリカでの製造を強く意識し始めた。

 

 古くからバナナ貿易と繊維の町として栄えたホンジュラス北部のサン・ペドロ・スラで、中米最大のアパレル製造工場が稼働する。米アトランタのアパレル製造会社テグラが建設したもので、ナイキやアンダーアーマーというスポーツアパレルの商品が製造される。

 

 工場は、ホンジュラスのエルナンデス大統領が2016年、デンマークのコペンハーゲンで開かれたスポーツアパレルの国際会議でナイキ関係者と直接交渉したことで建設が決まった。トップ自らが乗り込んで工場誘致をものにした。工場の広さは6万3000平方メートル、5000人以上の新規雇用が生まれる。

 

 サン・ペドロ・スラは首都テグシガルパに次ぐ同国2番目の都市。世界の「殺人の首都」といわれるほど治安が悪いことで有名だ。米国でも暗躍する「MS13」や「バリオ18」などストリートギャングと呼ばれる暴力組織が抗争を繰り返し、一般市民を標的にした恐喝や誘拐も後を絶たない。貧困と暴力の連鎖から逃れようと、町を出て米国に難民として渡ろうとする市民が相次ぐ。

 

 この工場は、希望を失ったサン・ペドロ・スラの「再生の灯り」としての役割も担う。

 

 大統領暗殺や大地震で揺れた「極貧国」ハイチもアパレル産業は希望の光だ。これまで欧米のアパレル産業がハイチに工場を建設し、地域産業として成長してきた。

 

 新型コロナ感染拡大以前、ハイチのアパレル産業の就労者数は約10年で6倍に成長した。コロナ禍による影響はあったものの、工場の新設計画はいくつもあり、建設されれば2026年までには、さらに5倍以上の約30万人が就労できるようになるという。

 

 ハイチも、自国で生活が出来ず難民として米国を目指す人々を多く生む国だ。アパレル産業は、難民問題の解決の糸口を作り出すかもしれない。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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