英国のグラスゴーで10月末から開催予定の「第26回気候変動枠組み条約締約国会議」(COP26)が目前に迫ってきた。これに間に合わせるかのように各国政府や企業・団体がこぞって「カーボンニュートラル」の駆け込み宣言を行っている。(写真はYahoo画像から引用)

 

 周知のとおり、欧米をはじめ、日本、中国、韓国の首脳はすでにカーボンニュートラル達成目標を国内外に宣言済みだ。ここにきて、ロシアも歩調を合わせた。プーチン大統領は10月半ば、自国で開催された国際会議「ロシア・エネルギー・ウィーク」で、2060年までのカーボンニュートラル達成を目指すと明言した。

 

 国際エネルギー機関(IEA)のデータによると、ロシアは世界第4位の温室効果ガス(GHG)排出国である。原油や天然ガスなどの資源大国であるロシアが宣言したことで国際協調路線に弾みが付くと期待されている。ちなみに、第3位のGHG排出国であるインドは50年までのGHG排出量実質ゼロ化を正式表明していない。

 

 プーチン大統領はまた、ロシアが2035年までに液化天然ガス(LNG)生産量を年間ベースで1.4億トンに増やすと付け加えた。さらに、天然ガス高騰で電力危機が懸念される欧州を含む国々に対し、すべての供給契約義務を履行し、必要があればガス供給を増やす意向であると強調した。

 

 資源企業の取り組みも目立つ。英豪系リオ・ティントは10月20日、CO2排出量を2030年までに半減させる計画を公表した。これを達成するために75億ドルを投資するという。再生可能エネルギー由来の電力を使用することで、これまでの目標の3倍の削減規模につなげる狙いがある。リオ・ティントは22年の設備投資額を75億ドルから80億ドルへ、24年には100億ドルに増やすとの見通しも示した。

 

 スペインのエネルギー大手、レプソルもこのほど、2050年までのネットゼロ排出に向けた新たな目標を公表した。それによると、低炭素にかかわるプロジェクトに10億ユーロを積み増し、総額65億ユーロを投資する方針だ。また、30年までにプロジェクト全体の投資比率を45%に高めるとしている。

 

 業界団体の動きも伝わる。全米ビジネス航空協会(NBAA)は10月12日、2050年までのネットゼロ戦略を発表。また、NBAAなどの航空3団体が20年から30年まで年率2%の省エネに取り組むことも明らかにした。

 

 企業や団体が脱炭素化を急ぐ背景には、投資家サイドの圧力がある。ロイター通信などによると、運用資産総額60兆ドル超の「気候変動に関する機関投資家グループ」(IIGCC)はこのほど、世界の電力会社に対しGHG排出実質ゼロの達成時期を最大で15年前倒しするよう求めたという。50年までの実質排出ゼロ目標を掲げる多くの電力会社には目標到達のハードルがいっそう高くなる。

 

 こうした状況下、COP26の議長国を務める英国政府は10月19日、ネットゼロ戦略で重点10項目を発表した。2030年までに最大900億ポンドの民間投資と、グリーン産業で44万人の雇用形成を目指すと強調した。具体的には、電気自動車(EV)化の促進、新たな原子力発電所の開発・建設、持続可能な航空燃料(SAF)10%配合などが骨子となっている。

 

 COP26は本来、2020年末に開催される予定だったが、コロナ禍の影響で1年先延ばしとなった。COP26の期間中、11月1、2日の両日に各国首脳が参加する会合「ワールド・リーダーズ・サミット」が開かれる。重点10項目の公表は、英国が「隗より始めよ」の姿勢を率先して示すことで参加国に取り組み強化を迫る狙いがある。待ったなしの温暖化対策で、議長役のジョンソン英首相が参加首脳らの意見をまとめることができるのか、その指導力に注目が集まる。

 

 

在原次郎

 Global Commodity Watcher