米国でカボチャが不足している。ハロウィーン(10月31日)を直前に、米国民の気になるニュースに浮上した。異常気象、カビ、物流の混乱、人手不足など、生産地によって「不足の背景」は様々だ。カボチャの現状を知ることは、米国が直面する厳しい現実を知ることでもある。

 

 仮装した子供たちが、菓子をねだりながら家々を練り歩くことで知られるハロウィーンでは、カボチャをくり抜いた怪物顔の提灯が米国の家庭や店舗などに飾られる。全米小売業協会の調べでは、約44%の米国民がハロウィーン行事としてカボチャをくり抜くことにかかわるという。日本でも最近、仮装した若者らが繁華街に集まることで話題になることが増えたが、米国ではハロウィーンは国民的行事として定着しており、提灯作りに適したカボチャはこの季節には欠かせない。

 

 提灯に用いられる代表的な品種は「ホーデン」と呼ばれるオレンジ色の大型のカボチャだ。米農務省によると品薄から「ホーデン」の価格は前年より約7%上昇している。地域によってはカボチャ全体の価格が前年の2倍になったところもあるという。

 

 米国ではカボチャは全国的に生産されているが、イリノイ、カリフォルニア、インディアナ、ミシガン、テキサス、バージニアの6州が主力産地で、この主産地での生産減がカボチャ不足につながっている。

 

 圧倒的な生産量を誇るイリノイ州ではカビの菌がカボチャに付着し、熟す前に腐ってしまう被害が相次いだ。この夏は例年より雨が多かったことが要因だ。7月にはカビによる問題が出始めていた。

 

 薬を散布しても降り続く雨で流されてしまい、薬の効果がなかったと嘆く農家もいる。例年よりも気温が高かったため、菌の繁殖を食い止めることができなかった。このため、農園によっては25~30%の減産となっている。

 

 高温と降雨によるカビの繁殖でカボチャが腐ってしまうケースは、南部や東海岸でも幅広く発生している。

 

 一方、カリフォルニア州では水不足がカボチャの育成を妨げた。

 

 今年、西海岸は猛暑に見舞われた。乾燥による山火事は広範囲に及んだ。夏が終わっても異常な乾燥状態は続き、植物の生育に影響を与えている。比較的、「強い」植物であるカボチャも異常気象による干ばつには勝てない。今年のカボチャの育成環境は「自分が経験した中で最も厳しい」と話す農家も少なくない。

 

 また、水不足で餌が少なくなった渡り鳥が畑のカボチャの種を食べてしまうケースも増え、生産減に拍車をかけた。カボチャの種は栄養が豊富で、渡り鳥にとっては格好のエサである。

 

 そして地域に関係なく影響を与えているのは、トラックと人手不足である。

 

 新型コロナウイルスの感染拡大で「現場」で働く労働者が急速に減少した。運送業界はその典型だ。米労働省労働統計局によると、トラック運転手らトラック輸送にかかわる労働者の数はコロナ前に比べ2万2000人減っている。

 

 カボチャ収穫時の季節労働者も集まらない。大規模農家では例年なら100人規模の収穫要員を臨時に雇用するが、募集に応じてきた労働者が一桁だったという農家もある。例年のように栽培ができた地域でも、人手不足で収穫がままならない。

 

 毎年9、10月は、カボチャはスーパーなど小売店で販売されるだけでなく、各地の教会などでもチャリティーイベントを兼ねて売られる。カボチャを運搬するトラックがフル稼働するのだが、トラックが手配できず、カボチャを運ぶことができない。何とか運ばれてきても運搬、人件のコストが高く、販売価格は高騰する。

 

 このため地域によっては教会などが秋の恒例行事を中止したところもある。カボチャ不足は、教会の資金集めにも深刻な影響を及ぼす。

 

 米国ではこの後、年末に向けたホリデーシーズン入る。11月のサンクスギビング(感謝祭)、12月のクリスマスは米国家庭の重要なイベントだ。新型コロナで昨年はできなかったことを、「今年こそ思い存分やってやる」と意気込む国民は多いが、カボチャひとつにしても思うようにいかないことで、国民のストレスは一段と蓄積されている。

 

 食料、エネルギー価格は上昇を続け、スーパーマーケットの棚から食品が消えた。ロサンゼルスなどの港には輸入物資が滞留し、沖合には貨物を積んだタンカーが1カ月以上、接岸を待っている。需要の急増が需給バランスを崩し、サプライチェーンが機能しなくなっている。

 

 秋から冬にかけてのホリデーシーズンは、消費需要が最も高まる時期だ。米国の消費者の半数以上が、サンクスギビングの前から、ホリデーシーズンの購入行動をスタートさせる。カボチャ不足の背景にあるサプライチェーンの混乱がこのまま続けば、ホリデーシーズンの消費全体に大きな影響を与え、ひいては米国経済の深刻な冷え込みを招く可能性がある。カボチャ不足はその前哨戦だ。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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