2021年10月13日(水)、気候変動イニシアティブ(JCI)主催の元オンラインで「気候変動アクション日本サミット 2021(JCAS2021)」が開催された。
これはCOP26の開催が11月に迫る中、企業や自治体といった非政府アクターと呼称される組織による意見発表の場を設ける事で、気候変動対策の機運を高める機会を設ける目的で開催されたものである。
今回はその取組の大枠を紹介し、イベントの特色を見出していくものとする。
気候変動イニシアティブとは
主催者である気候変動イニシアティブ(JCI)はJapan Climate Initiativeと呼称される団体である。
この組織の設立は2018年7月にさかのぼり、気候変動対策に積極的に取り組む企業や自治体、NGOなどの情報発信や意見交換を強化するためのゆるやかなネットワークを設営するという目的で105団体が寄り合い設立に至ったものである。
2021年10月16日現在の情報では671団体にまで加盟団体が拡大しており、迫りくる脱炭素社会の実現に向けて多くの企業や法人が加盟する大規模な組織となっている。
オープニング・セッション
最初に気候変動イニシアティブの代表である末吉竹二郎氏の挨拶をもって本イベントはスタートした。
現在当団体では政府に対し何度か提言を行っており、その成果もあってか首相が二酸化炭素削減の方針についてある程度言及した事を評価する内容の挨拶であった。
また国際会議の場でボリス・ジョンソン首相が述べた言葉を引用し、環境問題に対する取り組みに甘さを見せてはいけないという意識を改めて見せていた。
続いて海外の有識者3名からのメッセージが紹介される。
マイケル・R・ブルームバーグ氏(ブルームバーグ・フィランソロフィー創設者)、ケン・オフラハティ氏(COP26 アジア大洋州特使)、ゴンザロ・ムニョス氏(国連ハイレベル気候チャンピオン:COP議長より選出された気候変動対策活動の主要人物)の3名がメッセージを寄せた。
そのうちブルームバーグ氏は、日米両国の企業や自治体が努力をし、日本では気候変動イニシアティブに多数の団体が加盟している事を大きなプラス要素と捉えていた。
また再生可能エネルギーへの転換を急ぐ為、米国や欧州での火力発電所の閉鎖を支援している事を紹介。日本においても暗に取り組みを推奨する流れを形成したい様子を見せていた。
その後は特別報告「日本も直面する気候危機」というテーマで石井雅男 気象庁気象研究所 研究総務官が講演。
内容を掻い摘んで記述すると、まず大気中の二酸化炭素濃度は20世紀以降、昨今の経済活動に伴い急激に増加しているという結果が得られている。
また日本においても猛暑日や熱帯夜の増加、また大雨の頻度の増加といった形で温暖化が進行している影響が表れている。
温暖化の影響が現れる代表的な場所として海があり、例えば日本では昨年8月において海水温の大幅な上昇が起きている。
経済活動で排出された二酸化炭素の4分の1が海に吸収されている状況であるが、今後排出が続く場合は大気への残留二酸化炭素の増加や海水の酸性化が進行する懸念がある。
特に海洋の酸性化はサンゴ礁や海洋生物に対する影響が考えられる為水産資源を重視する日本としても無視できない影響がある。
手早くアクション(行動)を取る事で、今後の環境に対する悪影響を抑える事は非常に重要という結論である。
3つのパネルディスカッション
ここからはメインのプログラムへと内容が移行する。
今イベントの目玉となる「パネルディスカッション「気候変動アクション最前線 2021」と題されたプログラムは、様々な団体から環境に対する取り組みを報告する場となっている。
1つ目のセッションは「Race to Zero」という主題の元、以下の人物がパネルディスカッションの場に登場した。
小川謙司氏(東京都環境局 地球環境エネルギー部長)は「2030年カーボンハーフ」に向けた取り組みを紹介。
省エネや再エネ等の拡大はもちろん天然資源の消費を削減、再生可能資源の利用という資源とエネルギー両面を取り組みの柱としている。
特に建物については数十年使用される事を念頭に、太陽光発電設備を設置したり断熱や省エネの基準を設けた建築を進めていくとの事だ。
小山貴史氏(エコワークス株式会社 代表取締役社長)の取り組みは、木造住宅の新築や施設のリノベーションを中心とした事業に根ざすものとなっている。
エコワークス株式会社では使用する電力について再生可能エネルギーへと切り替えを行っており、達成率は脅威の100%という水準を誇る。
林寿和氏(ニッセイアセットマネジメント株式会社 ESG推進部 チーフ・アナリスト)の取り組みとしては、資産運用の観点から環境に対する問題と向き合っている。
投資先となる上場企業の選定に対して環境問題に取り組む企業を中心にセレクトする方針を取っており、また自社企業内での啓発活動にも大きく取り組んでいるとの事である。
福本ともみ氏(サントリーホールディングス株式会社 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長)は、2030年の目標を見据え2050年のビジョンを達成するという方針の元計画をスタートさせている。
CO2排出量ゼロの工場を稼働させたり、2030年までにペットボトルの100%サステナブル化(ペットボトルからペットボトルへのリサイクル)を進めている。
本セッション終了後にRace to Zeroへ協力するJCIサークルメンバーの映像が放送された。
その中ではデイブ・マンツ氏(花王株式会社 執行役員)、原科幸彦氏(千葉商科大学 学長)、勝木敦志氏(アサヒグループホールディングス株式会社 代表取締役社長)、佐々木裕氏(株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 取締役常務執行役員)が民間の人材として所信表明を行っていた。
また小池百合子氏(東京都知事)も行政側の人物として取り組みを肯定しており、改めてメンバーの層の厚さが見える一幕となった。
2つ目のセッションでは、新しくJCIに加入したフレッシャーズとなる団体を中心に話を進めていく形式となった。
「気候危機への新たな挑戦」と題された2回目のセッションからは、企業目標がSBT(科学に基づく目標設定イニシアチブ)認定を受けられる物かどうかという事も視野に議論がスタートした。
工藤昌子氏(塩野義製薬株式会社 サステイナビリティ推進部長)の紹介ではSBT認定を受けている事を発表。
昨今影響が憂慮されるCOVID-19のパンデミックに備え、流行の予測等を行いながらScope3(原材料調達を含めたCO2排出量削減目標)を達成する為に自社だけでなくサプライヤーの協力も不可欠である旨を説いた。
飛山芳夫氏(株式会社大林組 グローバル経営戦略室 ESG・ SDGs推進部長)の発表では建設現場における脱炭素化の推進とサステナブル建築の普及拡大を提示。
また本業の建築業のみならず、再生可能エネルギー発電事業の展開や水素製造や貯蔵等の技術を活かしたビジネス展開も発表するなど、多角的に脱炭素経営に取り組む様子が見て取れた。
花本和弦氏(日清食品ホールディングス株式会社 広報部 サステナビリティ推進室室長)は自社の多様な生産品に対し持続可能なパーム油の調達比率100%達成などのチャレンジを行っている事を紹介した。
植物由来の容器である「バイオマスECOカップ」の使用はもちろんのこと、植物由来の「謎肉」や代替食活用例のカマボコ具材「ほぼイカ」、更に利用が注目される培養肉の使用への取り組みなど環境に配慮した商品を生産していく意気込みをアピールしていた。
春名貴之氏(株式会社かんぽ生命保険 常務執行役)の発表では、公的機関が民営化されたという背景のもと環境保護への貢献を経営の柱の一つとしている旨を説明。
抱える事業の多彩さからCO2削減への取り組みは一筋縄ではいかない状況であるものの、その取組の一つとして脱炭素経営をしっかり行っている企業に対し投資先としてしっかり分析を行い推薦していく事が重要であると訴えた。
宮田千夏子氏(ANAホールディングス株式会社 執行役員 サステナビリティ推進部長)の発表では、航空機を運用する以上避けては通れないCO2排出の削減にどう向き合うかという事を中心に話を進めていった。
現在の大きな取り組みとしてSAF(Sustainable Aviation Fuel:(植物油等を原料とした)持続可能な航空燃料)の利用を推進しており、国外企業との連携で供給体制を整えフライトを実現させるなどカーボンニュートラルを目指す勢いを見せつける形となった。
3つ目のセッションでは「変革をめざすマルチセクター」というタイトルの元、自治体や消費者団体、宗教団体といったより幅広い団体の代表者から発表が行われた。
浅井伸行氏(創価学会平和委員会 事務局長)は宗教団体として取り組んでいるCO2排出削減の取り組みを紹介。
再生可能エネルギーで発電された電力への転換や、機関紙や啓発動画にて気候変動問題に対しての言及を行い、また国内政治へ働きかけを行うなど幅広い領域で活動を行っているとの事である。
猪田和宏氏(京都市 地球環境・エネルギー担当局長)は自治体として京都市が取り組んでいる内容を発表。
2050年にCO2排出をゼロとするべく「2050京創ミーティング」という団体を発足。また福島県の会津若松市と再エネによる電気の活用を通じた連携協定を締結し、市民が発電された電気を購入できる仕組みを全国に先駆けて導入した。
中村涼夏氏(YOUTH for ONE-EARTH)は、若者たちの組織する環境団体の代表として今回はスピーチを行った。
SNSを通じたデモ活動を通し、オンラインという環境を活かして自分たちが参加しやすい主張発表の機会を設けていく必要性を説いた。
村上千里氏(公益社団法人日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 環境委員長)の発表では、消費者団体という立場のみならず消費者の視点からもエネルギー消費の計画を立てている事をアピール。
消費者団体としては消費のライフサイクルを解説するツール開発やワークショップ開催を通じ、消費者の意識変革と共に環境に対して貢献できる手段を行政や企業に対してアプローチする事が大事であるという論旨であった。
最前線を走るトップリーダーセッション
最後は国谷裕子氏(キャスター)をオブザーバーに、多様な業界のリーダーから取り組みを聞くトップリーダーセッションが行われた。
呉 文繍氏(国際航業株式会社 代表取締役会長)の発表は脱炭素経営による基本方針を紹介。
安心で安全であり、持続可能な街づくりを理念としており、環境保全を事業の柱としている為空いた用地を中心に太陽光発電設備を建築し地域貢献に取り組んでいると主張した。
菅野暁氏(アセットマネジメント One株式会社 取締役社長)は運用資産57兆円と大きな規模であるが、環境問題やESG(Environment Social Governance)に感心を寄せていると表明。
運用資産のうち30兆円をCO2排出ゼロの企業に振り向ける2030年までの中間目標を掲げており、資産運用企業として前面に立っていきたいという同社の姿勢を示し日本の発言力を高めたいという意向を持ったものであると解説した。
西本利一氏(東京製鐵株式会社 代表取締役社長)は現在鉄スクラップの活用による製品の拡大に取り組んでいる事を提示。
2008年より地球温暖化問題が話題になり、電気炉メーカー(鉄スクラップを使用し電気炉で鉄鋼を生産する)としてこれまで高炉(鉄鉱石や炭を主原料とする生産炉)メーカーから冷水を浴びせられて来たが、巻き返しの時であると意気込みを語った。
原科幸彦氏(千葉商科大学学長、東京工業大学 名誉教授)は千葉商科大学が再生可能エネルギーにて発電された電力を100%使用しているという事をアピール。
2014年からこの取組を行っており、2019年には全消費電力を100%再生可能エネルギーで賄う事に成功している。
最後に森澤充世氏(CDP Worldwide-Japan ディレクター)が閉会の挨拶を述べて当サミットは閉会した。
要旨を記載させて頂くと、日本から脱炭素経営に取り組むコミットメントが昨今非常に多く出てきており、日本の環境意識が高まっている事が世界から注目を集めているとされている。
現状電力を抜きにした生活は出来ない為、再生可能エネルギーを発電の柱としてエネルギー資源の輸入依存から脱却する事は必要である。
我々が今後起こす行動次第で再生可能エネルギーを普及させる流れを作れる可能性があるという結論で締めくくられた。
二酸化炭素の排出量抑制という目的以上に再生可能エネルギーのあり方が大きく注目された今回のサミット。
まだまだ再生可能エネルギーには調達効率を含めた種々の課題があり、既存の化石燃料や原子力に変わる第三のエネルギーという柱が未だ見えて来ないのが現状である。
そういった中で再生可能エネルギーは果たして第三のエネルギー足り得るのか。技術開発を含めた関係者の今後の動向から目が離せない状態がしばらく続くだろう。
願わくは日本の新しいエネルギー資源の開拓と産業の礎となる事を願ってやまない。
(IRUNIVERSE ICHIMURA RYUJI)