EUの電池セル生産計画における生産能力(2021年8月時における計画発表)は既に1000GWh/年(2030年予測)に近付いており、将来の使用済み電池の大幅な発生が予測されている。

 

 また、電池の増加に伴い、その製造段階で発生する生産スクラップの大量発生も予想されており、これらは、使用済み電池を待たずして、リサイクル処理が必要となる。そのため、欧州は、リサイクル能力を大幅に引き上げなければならないが、リチウムイオン電池のリサイクルの最適化には、まだ多数の課題が残っている。

 

 バッテリーリサイクル技術に必要なイノベーションをめぐり行われている議論の一つに、電池解体のオートメーション化がある。来る使用済みEV時代における経済性について模索する自動車解体業界でも、電池解体のオートメーション化が重要だと考えられており、EUレベルにおける研究開発プロジェクトも進行しているようだ。

 

 高名なドイツの研究所フラウンホーファー(Fraunhofer IPA)は、業界のステークホルダーとの協力の下、使用済み電池の解体におけるオートメーション化の開発を行なっている研究機関の一つである。9月22から24日までスイスのジュネーブで行われた国際バッテリーリサイクル会議で、その内容のプレゼンテーションが行われた。Fraunhofer IPAでバッテリーシステムの解体のオートメーション化開発に従事するMax Weeber氏によると、同研究所で開発しているシステムは、ロボット化と手作業を組み合わせた「ハイブリッド」アプローチだ。

 

 バッテリー解体のオートメーション化は、その必要性が議論される中、解決されていない障壁も多数あり、懐疑的な声もある。その一つは、バッテリー構造の多様性である。特に、現在すでに使用されているバッテリーは、リサイクルを考慮して作られていないため、解体が非常に複雑だという。そのため、現在、リサイクルを考慮に入れた設計の見直しや規格化が検討されて入るが、使用済み電池の大量発生の初期段階では、過去に生産されたバッテリーの多様性に対応する必要がある。現段階では、仕様の異なるバッテリーに自動化でどう対応していくかが、最難関課題であるようだ。

 

 そのため、Fraunhofer IPAでは、最も複雑な処理過程であるパワーケーブル、センサーケーブル、コネクター、管理システムなどの解体を手解体とし、他をオートメーション化するというハイブリッド・システムを提案している。同アプローチによる一部のオートメーション化により、まず、初期投資を抑えることが可能だ。その後、設置したシステムを稼働させながら、さらなる必要性、改善点の可能性を「学習」することができる。

 

写真 EV用リチウムイオン電池の解体開発における現状について、プレゼンテーション後に、Weeber氏へコメントを求めた。

 

 今現在の開発状況と実用化・商業化の可能性について教えてください。

 

 当研究は、ドイツの環境・気候保護省およびバーデン・ビュルテンベルグ(Baden Württemberg)州政府のエネルギー部門から資金が支給されており、メルセデス・ベンツ、ジーメンなどの企業や、大学研究機関、リサイクル業者などの協賛パートナーとともに進めています。

 

 電池解体のオートメーション実用化は確実に可能で、近い将来、重要な役割を果たすでしょう。ただ、解体の種類によります。全ての電池に対する単一のソリューションによる実現を、始めから求めるのは難しい。

 

 これは、主観的な意見ではありますが、解体におけるオートメーション化を検討する場合、まず、使用済電池のサプライ契約と照らし合わせ、オートメーション化が意味をなすかどうかを考える。それから、プレゼンテーションでも述べましたが、ケーブルの取り外しなど、一番複雑な過程で、対応法が近い将来出てくる可能性が低い処理を手解体で行い、その他のスタンダードな作業をロボット化する「ハイブリッドアプローチ」から始めることです。まず、部分的なオートメーション化を導入し、現場からさらなる改善の可能性を学んで行けば、先のイノベーションへの近道にもなります。

 

 解体機能のそれぞれのカテゴリーを、単純過程・低コストvs複雑過程・ハイコストによる階級組織構造で分類するなら、まず、底辺の単純過程・低コストから始めることで、リスクを軽減できる。業者における、オートメーション化に対する「巨額の投資」という懸念が、オートメーション化への一歩を妨げている現実もあります。ハイブリッド・ロボットでは、85万ユーロから100万ユーロ(約一億1,000万円から13億万円)の見積もりが必要となる。確かに大きな投資です。従って、それぞれのニーズに合わせたスペックで、できるところから始めるということを提案したい。我々は、研究開発機関ですが、業者のニーズに従って、ポートフォリオを作成し、実際のロボットやツール製造については、パートナー企業へ依頼が可能です。

 

コメント:Mr. Max Weeber, Fraunhofer IPA

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

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SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

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