シリア内戦はもはや報道されることも少なくなった。「内戦」と言っても、国土の大半はアサド政権の支配下にあり、北シリアはクルド人勢力が支配し、一部をトルコが占領する状態だ。アサド政権とクルド人勢力は、米軍の駐留を巡る立場の違いから対立関係にある一方、トルコという共通の敵を抱えている。

 

 また、トルコが支援する反体制派勢力も共通の敵であり、反体制派勢力に敵対する勢力が国土のほぼ全域を支配する状況だ。反体制派は、トルコ軍の庇護の下、イドリブで僅かな支配地を保つに過ぎない。戦火は止みつつあるなか、シリアは各勢力に分断されたまま社会の正常化が進んでいる。そして、国際社会にも静かに復帰をしつつある。

 

 米国がシリアに制裁を課していることで、シリアは国際社会からは締め出されているように見えるが、徐々に外交活動を活発化している。ヨルダンとの関係改善の動きだ。実務者レベルの協議に始まり、シリア国営通信によると、3日にはアサドとアブドラ国王が電話会談を実施したとも伝えられた。ヨルダンは内戦開始以来、シリア大使を追放するなど険悪になり、米国による有志連合の一員としてシリアに対する軍事行動に参加もした。ヨルダン空軍パイロットがイスラム国に捕まり、後に痛ましい焼殺動画の公開に至ったことは私たちの記憶の新しい。

 

 ヨルダンは、体制転換の可能性が消滅した現在、現実的な外交政策へ転換した。ヨルダンは、シリア難民を抱える国であり、いずれの政権にせよ、シリアの安定は自国の負担軽減につながる。また、両国は、経済的苦境に喘ぐレバノンへの支援についても協力体制を構築している。

 

 10月6日、ヨルダンはレバノンへの電力供給に関する会議を主催した。南部の国境は、既にアサド政権が反体制派勢力から奪還し、2018年には再開されていたが、昨年には新型コロナウイルスの感染拡大で封鎖されていた。これも先月末、大規模な国境の機能が回復した。

 

 また、ダマスカスとアンマンの空港直通バスの再開も決定し、将来の空路での往来も再開する予定ということだ。シリアは、前述の米国主導の制裁、旱魃・ユーフラテス川の水位の歴史的低下による小麦生産の不振などで慢性的な経済危機に喘いである。関係改善によりヨルダンとヒトとモノとの往来が活発となれば、制裁によるダメージを軽減することも可能だろう。

 

 シリア内戦の帰趨について、ヨルダンとの関係改善はアサド政権を承認する流れに弾みをつけるだろう。アサド政権がシリア混乱の元凶とする欧米にとっては、皮肉なことにシリアを通じたレバノンの安定にもつながるかもしれない。欧米のシリア孤立化政策は、地域政治の現実の前に綻びを見せている。


 

Roni Namo
 
東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。