金融アドバイザーの川上敦氏(写真)は10月5日、世界経済の動向・分析にかかわる金融オンラインセミナーを開催した。このなか、中国経済について企業景況感の悪化、消費者物価指数の鈍化、伸びない自動車販売などに加え、経営破綻の危機にある恒大集団の影響などを踏まえ「中国景気は下向く可能性が大きくなった」との見解を示した。

 

 新型コロナウイルス感染拡大後、中国の企業景況感指数は急回復から横ばいを経て後退し始めた。8月の消費者物価指数は前年比プラス0.8%に鈍化した。また、購買担当者景気指数(PMI)も「製造業が悪くなってきている」(川上氏)という。

 

 小売売上高は前年比で高いものの、水準としては横ばいだ。恒大集団の経営危機の影響で投資動向も横ばいである。川上氏は「恒大の破綻問題が今後、出てくる」と指摘。ただ、2008年のリーマン・ショック時のような規模の経済危機にはつながらないと強調した。その理由について同氏は「仮にリーマン・ショックの再来となれば、香港市場でハンセン指数がもっと大きく下げているはずだ」とした。

 

 経済指標が冴えないなか、中国では8月の発電量が好調さを維持した。ただ、習近平指導部のもと、脱炭素に向けた取り組み強化で再生可能エネルギー導入を促進した結果、石炭を中心とする火力発電の出力制限の実施などで一部で電力供給が滞るなど、景気を冷やしかねない懸念も台頭している。

 

 こうした点を踏まえ、川上氏は「中国経済は戻りのピークを過ぎ、そろそろ調整局面に入るとみたほうがよい」との見解を示した。

 

 個別マーケットにかかわるワンポイント・コメントは以下の通り。

 

 

【外国為替】

 円の対ドルレートは、2020年3月からのドル安局面も、今年に入ってドルが強含んできた。川上氏は「ドル円は円売りポジションを継続する」と指摘。

 

 その上で「購買力平価による円の対ドル水準でみると、消費者物価の水準に近づいている。実効為替レートも円安といえる。1970年代の円安水準=約250円はおかしいとみるべきだろう」と付け加え、円安局面が終了するとの見方を示した。

 

 

【米金利】

 川上氏は「インフレ懸念による10年国債利回り上昇もそろそろ限界に近づいた」と指摘した。その理由について「3カ月物、2年年物金利はほとんど上昇していない。本当にインフレならば、これらの金利ももっと上がってよいはず。マーケットに誘導されたインフレ懸念ではないか」(同氏)。

 

 

【コモディティ】

 穀物相場、とりわけ、小麦やトウモロコシ相場の上昇が顕著だが、食料需給に基づく動きでなく、原油高にともない、トウモロコシなどが原料となるバイオ燃料需要で穀物相場が下支えられている。

 

 他方、米国ではシェール開発業者が石油掘削装置(リグ)の稼働数を増やしている。また、石油輸出国機構(OPEC)加盟・非加盟の産油国で構成するOPECプラスがこのほど、閣僚級会合で従来の計画を上回る大幅増産の見送りで合意するなどを受け、原油(WTI)相場は約7年ぶりの水準で推移している。川上氏は「高値水準は少なくとも今年いっぱいは続くだろう」との見通しを示した。

 

 

【株式】

 米国の長期イノベーションに対する投資家らの米株への評価は健在であるとともに、割安感のある日本株について「いったん下げたところが絶好の買い場ではないか」(川上氏)。ただ、米国株式市場で出来高が沈静化している点に注目とした。「価格は上がるが、出来高は落ちる。日本のバブル期に似ている現象」と付け加えた。

 

 

在原次郎

 Global Commodity Watcher