アロハ! コロナ禍で聞くには軽すぎる挨拶のように感じられるかもしれないが、最近ハワイから日本へ越してきた筆者は敢えて使おうと思う。アロハ! 多くの人はハワイ語で「こんにちわ」「ハロー」など挨拶程度の意味だと思ってらっしゃるだろうが、違う。アロハは感謝を表す時にも使うし、実は以下のハワイ語の頭文字を取った言葉なのだ。

 

  Akahi(アカヒ)... 思いやり

  Lokahi(ロカヒ)... 協調性

  Oluolu(オルオル)... 喜び

  Ha'aha'a(ハアハア)... 謙虚

  Ahonui(アホヌイ)... 忍耐

 

 つまりアロハとは挨拶以上のもの、見返りを求めない思いやりであり、お互い尊敬と愛情を持って接することであり、人が他人と生きていく上で重要な人間関係の本質などを説いたものと言える。

 

 The Aloha Sprit Law(アロハ・スピリット法)と呼ばれる1986年制定の「Hawaii Revised Statutes, 5-7.5」は、ハワイに住む人々に「アロハ・スピリット」に基づき行動するよう求めている。が、そこは人間、生きていれば色々あるのでスピリットがどこかへぶっ飛んでしまう事もしばしば。アロハの実践は容易ではない。それでも人々は、つまづきながらも、アロハの心で日々を生きようと努力しているのは本当だ。

 

 

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POW! WOW! HAWAII(パウ・ワウ・ハワイ)のアーティスト、ジェフ・グレスによるウォールアート。
ホノルルコーヒー・エクスペリエンスセンターのカラカウア・アベニュー沿いの壁に、
ハワイのモチーフを描き込んだ「ALOHA」の文字とダイヤモンドヘッドをペイントした。
ホノルルのインスタ映えスポットの1つになっている。



 

 世界有数の観光地ワイキキを含むハワイ州ホノルル市・郡は、8月16日現在で住民(12歳以上)の61.3%がコロナワクチン2回接種を終えており、警戒レベルは最も緩い第5段階のTier5(Tier1が最も厳しい)。住民の2回接種完了率が70%を超えると警戒なし=No Restrictionとなる。

 

 だが8月10日、イゲ・ハワイ州知事(沖縄にルーツを持つ日系人。日本名は伊芸豊)は行政命令 (Executive Order No.21-05) で社会的集会等の制限強化措置を発出した。命令では、社会的集会の人数上限を屋内については10人(Tier5本来の制限は25人)、屋外については25人(75人)までとし、レストラン・バー・ジム等感染リスクの高い施設における収容率上限を50%まで減らした。勿論、公共や飲食の場でのマスク着用、ソーシャルディスタンスも強く呼びかけている。命令期限は10月18日まで。

 

 また8月30日にはブランジアーディ・ホノルル市長が、9月13日から娯楽施設やレクリエーション施設、レストランやバー、屋内のスポーツジムやフィットネスクラブといった特定の事業に対し、一部の例外を除き、従業員と来客に対して米国で接種したワクチンカード等の提示を求める緊急行政命令を発出。同行政命令では、飲食店内でのアルコール類の提供は22時までとしている。

 

 これらのオーダーに対しハワイの地元の声はどうか。筆者の友人達の声を紹介させて頂くと、「あまい」「要ロックダウン!」と考えている人が少なくない。特に医療従事者のママ友パパ友は、施政者の首根っこ掴んで病院の現状を突きつけたい、と思っている。[注]:あくまで一部の声。これが全てではない。

 

 観光業が主要産業のハワイで、ロックダウンはキツい。かなり、キツい。学校で友達に会えなくなる子供達や、外で遊びまくりたい盛りの若者にも、一つ屋根の下に大家族で暮らす世帯が非常に多いハワイで、家族集会の人数が制限されるのも、他にも諸々、全て、キツい。

 

 が、「stimulus money」や失業保険など、州や連邦政府からの経済援助があったりするし、公園やハイキングできる州立公園などが全部閉鎖になってもサーフィンはOKだし、ビーチにいたら警察に注意されるが水(海)に入っていたらセーフだし、短期間のロックダウンなら経験済みだし、という思考回路があるのもハワイローカルなんである。

 

 何よりハワイは「島」である。島で感染症が蔓延したらどうなるか。答えは誰の目にも明らかであり、歴史を紐解いてもパンデミックが起きた時のロックダウンの必要性は明白なのだ。

 

 まだハワイ王朝が存在した18世紀、外国人探検家や商人、労働者、宣教師により新たなウィルスや病気がハワイに持ち込まれた。これらに対し免疫がなかったハワイ先住民の人口数は激減。この史実が有事の教訓としてハワイ施政者の胸に叩き込まれている、はず、なんだが政治家は一体何を考えているのか、一般人にはイミフな場合が多い。

 

 英国人探検家クック船長がハワイに到着した1778年当時のハワイ先住民人口を、学者らは約25〜100万人と推定している。それから約1世紀、王朝滅亡から2年後の1896年に行われたハワイ共和国国勢調査によれば、疫病等により先住民数は39,504人まで減っている(当時のハワイ総人口10万9,020人中39,504人)。

 

 性病、麻疹、赤痢、百日咳、肺炎、結核、インフルエンザなど様々な感染症の蔓延。時にはハワイ先住民死亡率が、その出生率を上回る事もあった。

 

 1899年12月、チャイナタウンで発生した腺ペストではホノルル全地区でロックダウンが実施された。発生源は、ホノルル港停泊中の貨物船にいたラット(ネズミ)とされている。翌1900年、州衛生局は市民衛生委員会を設立、諸島各地で検査官を選任し、あらゆる建物やその居住者に対し衛生検査を行った。当時の新聞は検査官らを「ラット十字軍」と呼んだという。

 

 ところで、ラットはおよそ900年前ポリネシア人と共にハワイにやってきたと言われている。18世紀後半になると西洋世界との接触で、世界中から様々な種のラットがハワイ入り。そしてラット退治の為に1883年、なんとマングースまでハワイにやって来た。

 

 製糖業者がサトウキビ畑を守るために立てたマングース・ハワイ移住計画というか対策だが、主に夜行性のラットに対しマングースは完全昼型。期待されたマングースのラット捕食は大して効果を上げず、代わりにハワイ生態系にとって望ましい鳥や昆虫、動物がマングースに食べられ数が減ってしまった。

 

 マングースはハワイ島、オアフ島、マウイ島、モロカイ島の至る所で見かけるが、カウアイ島とラナイ島にはいない。この件についてハワイで実しやかに伝えられているのが、次の話:カウアイ島の港湾労働者が、檻の中のマングースに手(かどこか)を噛まれて怒り、彼らを檻ごと海へ蹴っ飛ばしたから...。

 

 因みに、観光スポットのダイアモンドヘッドは絶好のマングース遭遇スポット。日本人観光客が「超かわい〜!プレーリードッグ?」と間違えてしまうぐらい、遠目にはキュートな外見をしているが、絶対に近づいたり餌をあげてはいけない。マングースは「Invasive Alien Species(特定外来生物)」、餌をあげたり故意に繁殖させると最大1,000米ドルの罰金が課せられる。

 

 

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カピオラニ公園から見たダイヤモンドヘッドの夕景


 

 ペストについて話を戻すと、1950年代まで、各諸島都市部や農村部でペストは周期的に流行し、収束まで400人以上の死者を出した。州衛生局は新しい浄水・下水・ゴミ処理システムの開発を勧告し、この時に整備されたものが現在のホノルルの公共施設・インフラの元となっている。

 

 

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アラモアナ・ビーチ。奥に見えるダイヤモンドヘッドは、雨がよく降ると緑色に、乾いた天気が続くと茶色になる。


 

 現在のハワイのゴミ処理は、基本的に埋め立て処分。日本のように可燃か不燃かの分別はせず、プラスチックや紙などいろいろ一緒に捨ててしまうのが一般的だ。つまり、日本の細かいゴミ分別に比較すると、かなりゆるい。ゴミ奉行もいない。筆者が住んでいたワイキキの古いコンドミニアム(地区40年以上)なんぞはゴミ分別不要、全部ひっくるめてゴミ袋に入れ各階のダストシューターに放り込みOK、という、とんでもない有様だった。(続く)


 

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Yumiko

 IRuniverse取材記者、フリーライター。

 アメリカ・ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ハワイに在住。

 趣味は将棋アプリでAIと対決(敗北多数)、三味線、着物ほか。

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