新聞・出版業界が斜陽産業と言われ、若者の活字離れが叫ばれて久しい。特に新聞で言えば久しいなんてものではなく、今や希望退職募集によるリストラ、オールドメディア、廃刊に休刊説といった、苦い言葉が常態化したような業界になっている。

 

 ここまでの後退ぶりには、もちろん複数要因がある。その全ては証しきれないとしても、活字が好きで、縁あって記者として新聞業界で働かせていただいた年数の経験とお世話になった方々、教えを頂いた方々への恩返しになれば、と願い、要因として分かることを書き出してみる。

 

 インターネットバブルが過ぎた頃、ネット媒体とのひと勝負はついていた。取材現場での長い待ち時間に、他社の記者さん何人かと「新聞はもってあと10年」という話を繰り返ししていた。

 

 その頃、各社のweb版は、新聞紙面の記事をそのままネット上にアップする、言葉は悪いが垂れ流し状態。新聞は1部120円(当時)で売るのにネットではタダ読み。社によっては売り始めるより早い時間からアップされるから、その時点で「情報は金で買う」の意識を薄めてしまったのが、まず失策その1だったのではと思う。

 

 それでも「各社がせーのっ!と足並み揃えてweb版を有料化すればいいのでは?」という建設的な意見を語る記者もいて、頷く人も多かった。

 

  が、現場のそんな声は、社の上層部にはほぼ届かない。なぜなら役職者・経営者クラスの世代は新聞立役者、揶揄すれば信仰者(ごめんなさい)で、新聞がネット媒体に負けるとは夢にも思っていなかった。

 

 ネット媒体への理解がないから活用法がわからない。でも普通の読者は負けていると既に思っていた。簡単に予測できた筈だった。失策その2に値するし、社の舵を切る人たちの判断ミスが、雪だるまのように大きく膨らみ、何年か後のリストラ策に繋がったと想定できる。

 

 横道にそれます。

 

 この時点でのweb版の収益は、クリック数に応じたweb広告料とYahoo!JAPANを始め複数のポータルサイトや携帯電話のニュースサイトへの配信料の2本柱で、今とほぼ同じ。新たなビジネスモデルが生まれていない。投資すべき事業でそれでは企業としてどうなんだろうと、他業界の頭の柔らかい人たちに突っ込んでもらいたいところだ。

 

 しかも、社内で道を模索していたのかと思いきや、編集部とデジタル事業部(仮の部署名、各社で名称が違うため)のそれぞれ役職者同士で喧嘩していた。

 

 いわく

 「俺たちが汗水垂らして取材して書いた記事をタダで流すとは」(編集部側)、「新聞が売れないからネットで宣伝してやっているんだ」(デジタル事業部側)と、全く噛み合っていない。

 

 そのエネルギーと時間を有効活用すればいいのに、無駄に消費していた。

 

 

ターニングポイントは3.11

 失策めぐり(だった?)に戻ります。そうして何年か経ち、売り上げ激減へのターニングポイントが、2011年の東日本大震災だったと言えそうだ。

 

 発生後の数日間は水、電気、ガスの供給もままならなず、確保したいのは生活物資、住む場所。紙の発行物など買う余地などない。2万人以上の犠牲者を出すことになってしまった非常事態下で、人の生死がかかった重要なニュースには、ネットやテレビというリアルタイム性が問われる。日刊というサイクルで発行される新聞は遅過ぎて、果たせる役割があったのかもしれないが役立てなかったという事実だけが残った。。

 

 この経験をせめて、不謹慎ながら教訓にできれば良かったが、できなかったのが今を見ればわかる。

 

 ネット媒体を何らかの理由で活用できない層が新聞を買ってくれるかもしれない、というある縮図が明確になったにも関わらず、だ。

 

 特化した新聞作りとweb版との棲み分けで活路があったのでは、まだあるのでは。非常事態下での販売部数激減から学べなかった失策その3は、被害が最も大きかったように思う。それまでの失策を覆すチャンスにもなり得た。

 

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 この間の新聞業界をデータ面からネットバブル期の2000年、東日本大震災発生年の2011年を目安として確認すると、(一社)日本新聞協会HPの調査データより、「新聞発行部数と世帯数の推移」では、

 

 2000年が一般紙とスポーツ紙の合計は5370万8831部、2011年は4834万5304部、10年で約536万部減少、減少率約1割。そのあともさらに急落している。

 

 

グラフ

(現代ビジネスより)

 

 

 「新聞社の総売上高の推移」は2004年度(それ以前は現在未掲載)が96社で2兆3797億円、2011年度が93社で1兆9534億円。6年で4263億円減少、減少率約1.8割。

 

 より正確な数字は各社に発行部数と実売部数を要確認だが、前述の数字をざっくり文章にすると、発行部数の約1割が売れずに新聞社が費用を被った、となる。ちなみに総売上高のうち、販売収入は5割強で、もう半分は広告収入やその他の収入(事業や不動産など)とされている。

 

 「新聞用紙の生産と消費」の国内生産が2000年で380万1988トン、2011年が328万2062トン。いずれの数字も右肩下がりの一途だ。ここに2020年の数字をそれぞれ加えると凄まじい急降下となるが、そこは前段まで話題と噛み合わないため割愛させていただいた。

 

https://www.pressnet.or.jp/data/paper/paper01.php

 

 震災以降も失策は続く。普通の人々が新聞を読んで知識を得て夢や希望を見い出す時代は去ったのか。新聞の良さを生かす策は。経験とエピソードと照らし合わせて、もう少し調べを進めることで何か人の生活の役に立つ可能性に賭け、転じて明るい話題に着地できたら、失策だって儲けもの。答えの出ない話題かもしれませんが格闘する価値はきっとあると肝に銘じている心持ちです。

 

 

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ren saito

 出版社と編集プロダクションで社会人の初歩を学び、金ナシ時間ナシ仕事たんまりの20代、新聞社という報道媒体で365日短距離走のような30代が過ぎ、40代以降は育児と文字を扱う仕事にまだまだ精進中。合間に離島と蕎麦と池波正太郎作品と緩めのエンタメものを真面目にチェック。

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