金融アドバイザーの川上敦氏はこのほど、世界経済の動向・分析にかかわる金融セミナーを開催した。8月の米雇用統計の数字が市場予想を大幅に下回る結果を受け、米連邦準備理事会(FRB)が予定する年内の量的緩和の縮小(テーパリング)について「9月の決定はないが、考える必要はある。雇用情勢の見極めが必要で、10月以降に判断されるだろう」との見解を示した。

 

 米労働省は9月3日、8月の雇用統計(速報値、季節調整済み)を発表した。非農業部門の就業者数は23万5,000人で、市場予想(72万人)を大きく下回った。FRBは9月21~22日、FOMCを開催する予定だ。テーパリングの決定が注目されるなか、今回の雇用統計の結果を受け、9月の開始判断はなくなったとの見方が市場関係者のコンセンサスとなっている。

 

 今回の雇用統計について、川上氏は「米国の景況でみると、100万人規模の増加はピークとなったのではないか。ただ、農業部門を含めた全産業では前月比50万人増えた」とし、「9月の決定はないが、考える必要はある」と強調した。今後の注目点として「原油などのコモディティ価格の落ち着き、今後の雇用状況の見極めが必要」と付け加えた。

 

 今年8月末のジャクソンホール会議でFRBのパウエル議長がテーパリング開始に前向きな意向を示したことに触れ、川上氏は「パウエル発言はバーナンキ前FRB議長の轍を踏まないことを明確した」と言及した。

 

 これは、2013年に当時のバーナンキ議長が唐突にテーパリングを予告して市場が混乱したことを指す。パウエル議長は市場との対話を通じての軟着陸を目指しているようだ。

 

 このほか、川上氏がセミナーで指摘した論点は以下の通り。特に米国と中国の経済動向については景気回復も一巡し、ピークの兆しが見えるとの見方を示した。

 

 

【米国経済】

 消費者心理指数は回復も一巡。実質消費は3月以降、2019年水準を上回るものの、今後どうなるかに注目すべきだ。小売売上高は回復もピークの兆し。自動車販売は2019年並みに回帰(水準は頭打ち)。PMI(購買担当者景気指数)は回復後、高水準を維持するものの、製造業は頭打ち。

 

 他方、名目民間設備投資は直近3四半期連続でプラス。金額ベースで最高水準にあり「デジタル産業分野など、設備投資をしっかりとやっている。コロナ後を見据えた投資が出ているといってよい」(川上氏)。

 

 

【中国経済】

 景況感指数は新型コロナウイルス感染拡大後、急回復から横ばい。川上氏は「マイルドに天井を打っている」と指摘。5~7月の自動車販売は半導体供給体制の問題もあり、数量が伸びない状況にある。消費者物価指数は7月、前年比プラス1.0に鈍化。同氏は「デフレっぽいイメージ」と表現した。

 

 そのほか、投資動向は急減から回復も頭打ち、建設投資もほぼ横ばいで2017年レベルに及んでいない。「中国経済は戻りのピークを過ぎ、そろそろ調整局面に入るとみたほうがよい」とした。

 

 

【日本の産業状況】

 川上氏は、日本企業の剰余金、純資産は十分確保とした上で「収益率、資産効率は低水準でさらに低下している」と指摘。2021年4~6月期をみても、設備投資に依然としてキャッシュが回っていない状況が分かる。

 

 日本企業は資産の回転が悪く「収益性を向上させないと大変な事態になる」と警告した。非製造業一人あたりの人件費はほぼ横ばいで「1994~96年水準と変わらない」(川上氏)。世界市場における日本産業のガラパゴス化に対する強い懸念を示した。

 

 

在原次郎

 Global Commodity Watcher