前回(→ Air Plane World ♯26 ついに航空会社が「航空機解体」を始めた?)の話では、航空会社での航空機解体の話をさわりだけ紹介しましたが、今回現役の航空整備士に現在の航空業界と整備士の現状をお聞きする機会がありましたので、そしてそこから航空会社における航空機解体の可能性を考察していきたいと思います。

 

 コロナショックが起きて2年が過ぎようとしていますが、ワクチン開発、接種までようやくこぎつけたという印象ですが、その横でデルタ株などの変異型ウィルスの広まりや、新たな感染拡大など予断を許さない状況が続いています。

 

 未だ大打撃を受けている航空業界ですが、海外では一部需要が回復という事で、一時的に運航を停止しいていた路線、航空機が運航に復帰したり、また日系では、航空貨物、郵便に特化したことで赤字幅が圧縮されたなどの報道が飛び交っていますが、日系大手2社の決算発表では引き続き厳しい状態が続くと話しています。

 

 

忙しいのに給料カット…その理由は

 今回お話を伺うことができた現役航空整備士の話を聞くと、現在、大手航空会社の整備士は、これまでにない忙しさだといいます。確かに、航空貨物については、大手二社は多くの便を飛ばしていますが、旅客需要が蒸発した事実は、毎回報道で、何百便の減便、という表現で表れています。その中で、整備士が忙しい理由はなぜか?

 

 現在の、整備士の多忙さは、「他社に業務委託をしていた作業が、本業の航空輸送の売り上げ減でその費用を払うことができないので自社で行っている。」という理由だそうです。

 

 ここで言う他社に業務板をしていた作業、というのは「重整備」にあたります。

 

 大手の航空会社の多くは、重整備など大掛かりに時間と人材が必要となる作業を、東南アジアにある航空機整備専門の会社などに委託していました。しかし、業績の悪化で、日系の航空会社でも、整備業務委託費がまかなえないため、仕方がなく「重整備」を自社で行っているということでした。以前は、大手でも多くの保有航空機を飛ばしていた為、合間を縫って航空機を休ませて、決められたスケジュールで整備を行っています。しかし現在では、多くの航空機が余ってしまい、「退役ラッシュ」が続く中、航空機が余るという状態は続いているようです。航空会社では「人余り」も、時間も余り、機材も余るため、航空機を整備する時間が多くでき、委託費が払えなくなったという理由が大きい中、自社で重整備を行っているといいます。それと並行して整備士の勤務も増えているそうです。

 

 ここで航空機の整備については、いくつか種類があります。

 

Tチェック→国際線で約2時間、国内線で45分~1時間で2~3人で機体チェックする

 

Aチェック→300時間飛行「1か月」間隔で行われる。航空機が最終便~翌朝の始発便で出発するまでの1番で10~15人で行われる整備。内容としてはエンジンオイル補充、作動油補充など

 

Bチェック→1000時間飛行ごとに行われる整備。エンジン関係の点検を中心に行われる。

 

Cチェック→3000時間「1年」で行う整備。整備場に入れて、100人の整備士によって、7~10日間をかけて行う。改修や消耗部分を交換する。

 

Ⅾチェック→4~5年に1か月をかけて行う整備。この整備で、航空機は分解され、操舵系統、エンジン、油圧などそれぞれの担当整備士の配置を決め、点検が行われる。人間で言う定期健診にあたる・

 

が代表的な整備内容ですが、これまで大手が海外に委託していたのが、恐らくC、Dチェックに当たると思われます。

 

 

転職を考えども…

 この整備士は、比較的私に近い存在という事もあり、「転職は考えなかったのか?」という事も聞けたのですが、その答えは「No」でした。

 

 理由は、やはり持っている技術、知識が特殊過ぎて、潰しが効かないということでした。例えば自動車整備士に転身するとしても、その持っている知識はあまり役に立たないと語っています。また、自身の家族や親族に対し、「大手航空会社の整備士」というブランドが効いているため、心理的に辞めにくいと話していました。ちなみに、当然のごとく給与カットは行われたそうです。

 

 苦境の航空会社ですが、彼らの様な縁の下の力持ちが、もう一度希望をもって、自身の仕事を誇れるような時代が来ることを願うばかりです。

(続く)

 

 

(文:金剛たけし)

 

 

※参考文献:ベテラン整備士が明かす意外な事実 ジャンボ旅客機99の謎:タイ航空リペアマン・スーパーバイザー、エラワン・ウイパー著 訳、ウイチャイ・ワンナワック(二見出版)