写真 欧州における輸送セクターの電気化は、EUおよび加盟各国の多角的な政策により推し進められている。欧州を網羅する高速充電ステーションの数も増加をたどり、EV普及へのインフラ構築も整いつつある。EV(ハイブリッドを含む)の大幅増加に伴い、2030年から2035年までには、使用済みEVの数も上昇し始める事になる。世界に先駆けて、輸送部門の電気化を促進する欧州では、使用済み自動車のバリューチェーンにおいても、将来大量に発生するEV処理への対応準備が始まっている。

 

 今回MIRUは、仏自動車解体最大手INDRAに訪問取材、技術・衛生・安全・環境部門部長Olivier GAUDEAU 氏へ、EVの処理における現状、ガソリン車処理との比較における相違、課題および今後の展望について話を聞いた。

 

 INDRAは、MIRU記事でも既に紹介しており、GAUDEAU 氏には当社主催の自動車セミナーにもフランスから参加頂き、国内ELV事情についてお話いただいている。

 

(関連記事)

 ・欧州からの風#130 「欧州における行方知れずの車両について」

 ・IRRSG/オンライン ①フランス他EUのELV現状〜INDRA AUTOMOBILE RECYCLING Mr.Olivier

 ・フランスからの風#38 「コロナショック後のフランス自動車リサイクル業界:INDRAに聞く①」

 ・フランスからの風#39 「コロナショック後のフランス自動車リサイクル業界:INDRAに聞く②」

 ・フランスからの風#40 「欧州ELV指令への期待、INDRAに聞く③」

 

 同社は、自動車解体だけでなく、自社プラットフォームにおける中古部品の販売や、個人専用の使用済み自動車回収システム、ELV指令下のリサイクル・原料回収ターゲット達成や自動車解体作業の最適化におけるコンサルティング、解体ソリューションなどを提供、多角的な事業を行なっていることでも知られる。また、フランス国内の認定解体業者(以下ATF)のおよそ3割をその傘下に置いている国内最大手だ。INDRAは、仏自動車メーカー・ルノーが50%を所有しており、ルノーが推進する環境戦略の下、クローズドループ構築に向け、自動車リサイクル部門を担う存在でもある。

 

 廃EV(ハイブリッドを含む)の数については、まだ少なく、目下のところ、発生するのは事故車か破損車だ。廃EVの解体には、ガソリン車とは異なる技術や設備、保管方法が必要となるため、EV処理を行える業者は非常に限られており、INDRAは、国内のEV処理を初めに着手したATFでもある。そのため、同社の手がけるコンサルティング業務の延長として、EVの取り扱いにおけるトレーニングや解体機材などの提供も行っている。フランスでは、現在EV処理に関する特定の認可制度は設置されていないが、ATF の作業員が電池の安全な取り扱いなどの訓練を受け、解体施設にEV用の設備を整えることで対応している。

 

 現在、フランス国内で処理されるEVは、2019年の例で200〜300台。2020年度の数字はこれを上回り、500台近くになる予定だ。このうちのおよそ半数が、INDRA によって処理されている。これは、同社が早い時期から、駆動用電池の安全な取り扱いを含むEVの処理法や機材の開発を行い、他のATFに先駆けて、廃EV処理に対応している背景がある。現在回収されるEVは、事故車・破損車という理由から、最終所有者は保険業者となっている。廃EVの数は、2030年から本格的に増加すると見られている。

 

 

EV処理における課題は経済性

Q:ガソリン車と比べ、EV処理における大きな変化や課題は?

 

A:私の意見では、最大の課題は、技術面ではなく経済面です。我々解体業者が自動車解体における技術的な課題にするのは初めてのことではなく、これまでも様々な自動車モデルの変容に対応してきました。EVについても同様です。必要な技術や設備の開発によって十分対応できるものです。もちろん、発火によって起こる火災など、廃EVの取り扱いにおける安全性の問題は最も重要です。特に、現在回収されるEVは、破損している車がほとんどなので、火災のリスクは非常に高い。そのため、特別な保管設備も必要です。ただ、これらは全て財政的な問題です。設備には投資が必要になり、時間も要する。実際の処理業務にも、ガソリン・ディーゼル車より1時間以上余分にかかります。経済的な面では難しい。正直なところ、必要なコストに対し、収入面は決して良いとは言えないのです。

 

 

収益向上には電池が頼みの綱

 原料面を見ると、ガソリン・ディーゼル車に比べて収益が低い。また、現在はEV自体の数が非常に少ないため、中古部品のニーズも非常に低く、販売が難しい。おそらく5年後には、需要が上昇するでしょう。しかしながら、例えば、長寿命の電気エンジンについては、ほとんど売れない。30年から50年持つと言っても良い。そのため、ガソリン・ディーゼル車では、収益が非常に高い中古部品の販売については、展望は明るいとは言えない。そのため、最重要課題は、駆動用電池に焦点を当てることで、経済性をいかに上げていくかです。そのまま再利用できるものはもちろんのこと、できないものについても、モジュールの一部を再利用していく。今後、解体業者がEV処理における収益性を上げていくには、この点に尽力するべきだと考えています。

 

 

オートメーション化の必要性

Q:今後EV処理に必要な革新とは?

 

A:まず、作業場の安全性の確保と、電池を保管する際、安全性を確保する設備です。また、将来的には、駆動用電池の解体のオートメーション化を行うべきだと思っています。現在、EUレベルにおいて、そのための様々な共同研究プロジェクトが進行しており、当社も参加しています。自動車の解体のオートメーション化は非常に難しいですが、電池解体については可能だと思います。

 

 

Q:駆動用電池のセカンドライフ市場への参入については?

 

A:もちろん、参入するつもりです。繰り返しになりますが、今後解体業者の収益を上げるには、駆動用電池に焦点を当てる必要があるのです。

 

 

Q:電池の診断についてはすでに始めているのですか?

 

A:現在必要な作業を進めているところです。

 

 

【取材協力】:Mr. Olivier GAUDEAU, INDRA Engineering and Health, Safety and Environment Manager

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

********************************

SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

 *ヨーロッパに御用がある際はぜひご連絡ください→ MIRUの「お問い合わせ」フォーム又はお電話でお問い合わせください。

********************************