アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが首都カーブルを制圧してから2週間。タリバンは、首都掌握後、カルザイら旧政権の有力者と会談し、多数の勢力が参加する新政権樹立をアピールしている。タリバン報道官は、懸念される女性の権利の行方について「イスラム法の枠内」において保証されると発表した。タリバン幹部が、彼らの支配する「アフガニスタン・イスラム首長国」は民主国家にならないと発言したこと、女性の権利が各地で制限され始めているとの報告が相次ぐなか、今後のアフガニスタン動向に懸念が広がっている。(写真はパンジシール渓谷、Yahoo画像から引用)

 

 米国が関係者などの退避を進めるカーブル空港付近では8月26日、アメリカ兵、またタリバンにも死者が出た爆発が発生し、「イスラム国」の名前で犯行声明が出されるなど、安定とは程遠い状況にある。

 

 タリバン支配の闇がアフガニスタンを覆う中、一筋の光明というべき抵抗の動きが注目を集めている。カーブルから約100キロメートル北に位置するパンジシール渓谷に、旧政府軍・警察の残党が集結し、タリバンへの抵抗軍を組織している。パンジシールは、天然の要塞というべき峻険な山に囲まれた渓谷で、入口は狭く大部隊を展開できないため、侵攻してきた敵を容易に撃退することができる。

 

 8月20日には、抵抗軍が北部の3地域をタリバンから奪還したと報じられた。そして、旧タリバン政権時代、「パンジシールの獅子」と呼ばれ、タリバンへの抵抗を指揮したアフマド・シャー・マスードの息子アフマド・マスードがその旗印として迎えられた。マスードは、あくまでタリバンと交渉を目指すとしているとしており、それが受け入れられなければ「内戦になる」と警告している。タリバンは、カーブルから目と鼻の先にある障害、正に目の上のたんこぶというべきパンジシールを制圧するため、数百人の兵を送ったと発表した。そして、パンジシールに入ったと主張したが、抵抗軍はこれを否定した

 

 一方、抵抗軍はかつての北部同盟と同様、タリバンの進攻を食い止めるのがやっとである。弱点は軍事的というより政治的。タリバンは、復権に向けた武装闘争において「農村が都市を包囲する」戦略を地でいった。米国の後押しによる北部同盟政権下で、支配者の地位に返り咲いた旧軍閥の統治に不満をもつ部族、農民の支持を集め農村部を手中に収め、じわじわと都市に圧力を加えていった。

 

 マスードらの勝利が、カルザイ政権のような腐敗した北部同盟政府の再来になると見なされれば、タリバンの強固な地盤を崩すことはできない。一方で、パシュトゥン人中心主義のタリバン支配が復活することで、タジク人、ウズベク人、ハザラ人などの少数民族に対する迫害が苛烈になれば、抵抗軍に与して蜂起することも期待できる。マスードは、父親のような武功よりも、政治的なメッセージを発することが求められている。

 

 タリバンは、攻略が難しい渓谷への軍事作戦を発動することより、兵糧攻めで真綿で首を締めるように追いつめていくとみられる。抵抗軍はロシアメディアの取材に、タリバンが送電を遮断するなどして、人道状況を悪化させようとしていると明かした。抵抗軍へ連帯する動きが各地で広がらないと、パンジシールで抵抗を続けることも難しいだろう。今後、タリバンが樹立は近いとしている政府が、他勢力、少数民族を包括したものになるか、懸念される通りの暴政がなされるかも抵抗軍の命運を分けることになる。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。