欧米における水素エネルギーの開発、提携、供給が加速している。企業のほか、政府が助成するケースも目立つ。最近の海外報道から欧米における水素エネルギービジネスの動きを追った。(写真はイメージ、エアプロダクツのニュースリリースから引用) 

 

 米国では、エネルギーインフラ企業のバッケン・エナジーが合成燃料設備のブルー水素プラントへの転換を計画している。同社はこのほど、ベーシン・エレクトリック・パワー・コーポレ―ティブからダコタ・ガシィフィケーション・カンパニーを買収することに合意したと発表した。

 

 バッケン・エナジーは、ダコタ・ガシィフィケーションのノースダコタ州ビューラー近郊にある合成燃料プラントを水素プラントに転換することを計画する。プロジェクトはATRプロセスとCO2捕集プロセスを利用し、水素を年間ベースで31万トン製造することを目指す。

 

 他方、石油メジャーのシェブロンと米エンジンメーカーのカミンズ(インディアナ州)が水素で戦略提携することが明らかとなった。シェブロンU.S.Aは7月末、シェブロン・プロダクツ・カンパニー部門とカミンズが、水素などの代替エネルギー源で商業化ができるビジネスモデルを開発する戦略で提携をしたと発表。当初は4つの主目的(水素を促進する公共政策・市場構築・インフラ開発・カミンズの電解槽や燃料電池技術のシェブロンが保有する製油所への適用)で協力するとしている。

 

 エアプロダクツは、カナダ・アルバータ州エドモントンに建設する水素プラントにハルダートプソーの改質プロセスSynCOR(写真)を採用する。原料は天然ガスで、二酸化炭素(CO2)を95%捕集し、地中に貯留することを計画している。エアプロダクツは、水素パイプライン「Air Products Heartland Hydrogen Pipeline」で水素を製油所や石油化学プラントに供給するという。

 

 ドイツでは、リンデが8月末、独半導体メーカーのインフィネオン・テクノロジーズにグリーン水素などを長期契約で供給することに合意したと発表済みだ。リンデは、オーストリアのフィラッハにあるインフィネオンの製造施設内にITMのプロセス技術を採用した水電解による水素製造設備(2MW)を建設し、運営している。

 

 また、ドイツの電力会社であるRWEはこのほど、ウクライナ国営石油ガス会社のナフトガスとウクライナでのグリーン水素開発で提携したことを公表した。 ナフトガスとRWEの子会社RWEサプライ& トレーディングがウクライナでのグリーン水素のバューチェーン全体での提携に合意。ウクライナでグリーン水素やアンモンニアを製造してドイツに輸出する計画だ。

 

 水素エネルギー開発にかかわる国の助成の動きもある。英国政府は8月下旬、低炭素水素戦略を発表。2030年までに低炭素水素生産能力を5ギガワット(GW)に引き上げることを目標に設定した。

 

 それによると、英国政府は化石燃料と低炭素水素のコスト差の縮小を目指すとしている。40億GBPの投資効果と9,000人の雇用創出効果も見込む。また、大気汚染の大幅な排出削減を求められる産業界に対する、政府による1.05億GBPの財政支援も明らかにした。

 

 一方、ドイツでは、港湾輸送ロジスティクス会社Hamburger Hafen und Logistik AG((HHLA)がグリーン水素輸送テストで助成金を獲得したとの情報も伝わる。2040年までのカーボンニュートラルを目指し、ドイツ連邦教育研究省(BMBF)からグリーン水素輸送技術テストで230万EURの追加助成を獲得するとしている。

 

 BMBFは、国家水素戦略実装の一部として4年間で水素社会に移行するための3つのプロジェクト(大規模水電解/水素などの洋上での製造/水素の輸送)への助成を予定している。

 

在原次郎

Global Commodity Watcher