異例のコロナ禍で開催された東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会。バブル方式により行動制限が課されている選手たちにとって、東京晴海の選手村に閉じ込められた生活は窮屈なものかと思いきや、多くの選手たちにより村内の施設や食事を楽しむ様子が連日世界に向けてSNS発信されている。なかでもメインダイニングは「素晴らしい」「世界一おいしい」「感動的!」などと評され、選手たちの評判がすこぶる高い。

 

 

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 選手目線で選手たちのSNSを覗いてみると、メインダイニングの料理はアスリート専用というだけに非常にバラエティーに富んでいた。こちらでは、地域の多様な食文化に対応できるよう洋食やアジア料理だけでなく、イスラム教徒用のハラル食やベジタリアン、グルテンフリーなど、700種類ものメニューが提供されているという。またアイスやお菓子、ドリンクなども豊富に揃えられ、全て無料提供なのだ。

 

 また第2食堂のカジュアルダイニングは、選手たちから「ジャパニーズレストラン」と認識されており、開催国日本の伝統的な料理や日常的な和食メニューが用意されている。おにぎり、麺類、鉄板焼き、串焼き、お好み焼きのほか、ご当地メニューなどが振る舞われているそうで、日本人選手からの人気も高いようだ。村内にはほかにもスタッフ用ダイニングがあり、3つの食堂が運営されている。

 

 ところで、東京2020大会組織委員会が7月28日に行った記者会見では、オリンピックの開会式が行われた23日、国立競技場でボランティアやスタッフ用に用意された弁当約1万食のうち、約4千食もの余剰が出たと発表した。高谷正哲スポークスパーソンによると、「発注量が多く、当日弁当を食べなかったスタッフが多くいたこともあり、実際の需要との誤差が生じた」ことが一因だと説明した。だが、余った弁当は飼料やバイオガス化へのリサイクルに回したと述べ、「廃棄」ではなく「リサイクル」であることを強調。そしてその他の会場を含めた全体の余剰として「先週まで概ね2割から3割生じていた」とし、その後の発注量については最適化に取り組むことを明言した。

 

 

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 オリンピック大会では、ボランティアと組織委員会の人数を合わせると約6万人となり、そのうちの2割から3割の余剰が生まれていたとすると、少なくとも1万食以上の廃棄が行なわれていたことになる。たとえそれがリサイクルの原料となったとしても、食品の余剰が生まれていたことに変わりはなく、食べられるものを食べることなく始末していることに対して、黙っていられない人たちもいる。

 

 実は、このような問題が生じることを懸念し、数年前から組織委に余剰食品の引き取りについて打診していた某国内フードバンク業者があった。某業者によると、組織委と数年に渡って何度もミーティングを重ねたが、最終的には「セキュリティー申請の都合上、余剰食品を寄贈することができない」とか、「オリンピックのスポンサー以外の企業には寄贈できない」などの理由で最終的には断られたという。

 

 

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 オリンピック・パラリンピックの余剰食品については、2012年のロンドン大会で期間中に2433トンの食品廃棄が発生したことをふまえ、2016年のリオデジャネイロ大会では、画期的な対策が取られた。 世界各国のシェフ45人が選手村で廃棄される食品から料理を作り、貧しい人やホームレスに配る「Reffetto-Rio」(レフェトリオ)というプロジェクトが行なわれたのだ。

 

 イタリア語で食堂を意味するrefettorioと開催地Rio(リオ)をかけて名付けられたもので、45人のシェフはボランティアでプロジェクトに参加した。

 

 このような経緯から、東京大会でも余剰食品の活用が大々的に行われると予想されていたが、実際にはそのような計画はされず、大会終了に至るまでその予定もないという。

 

 東京大会の開催と同時に全国の新型コロナ感染者が急増し、その影響でボランティアの辞退者がさらに増えたため、食品の余剰もより増えたのではないかと、選手村のスタッフはいう。

 

 選手村での食事提供は弁当ではなくホットミールのため、食材は日々の利用者数を予測したうえで発注しており、余剰食品が出ないようにコントロールされている。それでも食材が余ってしまった場合、賞味期限のある物についてはボランティアやスタッフに配布して消化するらしい。

 

 例えばメインダイニングで余った選手用のバナナをスタッフ用ダイニングで無料配布すると、選手用の食品は高品質のため、あっという間に在庫がはけるという。とはいえ、その配布量が一人分の許容量を超えるときもあり、ボランティア一人につき余剰ヨーグルトが3~4個配られることもあるそうだ。

 

 選手村の食材は、目立った廃棄に至っていないために問題視されることはないのかもしれないが、余計に配られた食品をスタッフが無理にお腹に収めているならば、それを必要としている人々に配るルートに乗せてもよかったのではないかとも思われる。

 

 コロナの影響により、生活に困窮する家庭がさらに増えている。

 

 フードバンク業者では、そのような家庭に向けて食材を届けるなど、積極的に食の支援を行っている。リオデジャネイロ大会で成功したフードロス対策のレガシーは、東京大会で受け継がれる必要はなかったのだろうか。オリンピック・パラリンピックの開催により、日本人の客人に対する「おもてなし」の心は外国人選手たちに高評価を得た。だからこそ、物を無駄にしない「もったいない」の精神や、困窮家庭に手を差し伸べる「おもいやり」の心など、日本人の美徳が食を通して世界に発信されるオリンピックであってもよかったのではないかとも思う。

 

 東京大会はようやく折り返し地点を通過した。パラリンピックが終了するまでの2週間、世界はまだまだ「日本式」の対応に注目している。

 

 

(越智かのん)