三菱重工業(MHI)は8月25日、豪州現地法人であるMHI豪州と三菱重工グループのプライメタルズテクノロジーズを通じ、豪州の共同研究センターHILT-CRC(Heavy Industry Low-Carbon Transition Cooperative Research Centre)にパートナーとして参画することを明らかにした。(写真はプライメタルズテクノロジーズが試験運用中のHYFORのパイロットプラント=MHIの公式HPから引用)

 

 非営利団体であるHILT-CRCは、豪州の重工業部門を脱炭素化する技術と手法を開発し、同国の鉱物資源とクリーンエネルギー資源を活用することで、認定低炭素製品にかかわる輸出市場の成長機会を掴むことを目指している。プロジェクトへの資金提供は、参画するパートナー企業・組織による現金・現物提供1億7,500万豪ドル、豪州連邦政府による補助金が3,900万豪ドルに上るという。

 

 MHI豪州とプライメタルズテクノロジーズは今後10年にわたり、鉄鋼生産に関する長年の知見およびリソースを提供するとともに、プライメタルズが欧州で試験運用中のHYFOR (Hydrogen-based Fine Ore Reduction:水素ベースの粉鉱石還元) 技術をはじめとした、水素による鉄鉱石の直接還元技術に関する研究開発に力を注ぐ。

 

 MHI豪州は、豪ニューサウスウェールズ州政府と西シドニー地域の総合開発計画におけるエネルギーマネジメント提案などで提携するほか、2023年前半に運転開始を見込む、Hydrogen Utility(H2U)による南オーストラリア州でのグリーン水素・アンモニア事業の検討に参画している。

 

 他方、プライメタルズテクノロジーズは、鉄鉱石の選鉱、ペレタイジング、焼結、鉄鉱石還元などの幅広い技術を提供している。同社は、現在の主流であり水素100%での運転が可能な天然ガスベースの鉄鉱石直接還元技術「MIDREX DRI」プラントの配備に全世界の3分の1で関わる実績を有する。水素を原料とした同社の鉱石還元技術であるHYFORは、1990年代後半にプライメタルズテクノロジーズの前身会社VAIによって開発された。

 

 製鉄セクターが世界における温室効果ガス(GHG)排出量の7~10%を占めるなか、世界最大の鉄鉱石鉱床を有し、鉄鉱石の主要輸出国である豪州は産業の脱炭素化で重要な役割を担っている。製鉄産業が脱炭素化する上で、従来の石炭およびコークスベースの製鉄プロセスから水素ベースの製造方法への転換は不可欠とされ、技術導入することで、豪州は低炭素で直接還元された鉄鋼の主要輸出国となる可能性がある。

 

 MHI豪州などの今回のパートナー参画について、エネルギー専門家は評価する。低・脱炭素化に向けた世界的な動きが加速するなか、鉄鉱石生産・輸出国である豪州と連携を深めることは日本の国益にもつながる。米中貿易摩擦が熾烈さを増すことで、日本の立ち位置が難しくなるなか、豪州との関係強化・深化は鉱物やエネルギー資源をめぐる地政学リスクの回避になるという見立てだ。

 

Jiro Arihara

Global Commodity Watcher