16日、行政院長の蘇貞昌(スー・ジェンチャン)は、検討中であった5倍振興券計画を進めることを決定したと発表した。振興券は10月初旬にも発行される見込みだ。昨年の3倍振興券は、1000元を支払うことで3000元分の振興券を受け取ることのできる仕組みであったが、今年は1000元を支払うことなく、1人当たり5000元の振興券が受け取れるということだ。

 

 当初の5倍振興券計画は、低所得者をはじめとした109万人に1000元の支払いを免除するというものであった。しかし、野党である国民党や与党である民進党の一部からも現金支給をすべきという声が上がっていた。世論と党内の圧力の下で、無料という提案に至ったという。

 

 この決定により、当初の予算よりおよそ200億元増加し、合計で1,300億元の予算が必要となると推定されている。しかし、この金額はあくまで1,605億元の特別予算の範囲内であり、新型コロナウイルス蔓延による経済低迷に確実にプラスの効果をもたらすと考えられている。

 

 16日の最終討論によると、5倍振興券の額面は1000元3枚、500元2枚、200元5枚となった。しかし、与党内部からは、少額券を増やし、同時にケータリング・小売・宿泊・美術展など、今回の新型コロナウイルス蔓延により影響を受けた4つの主な業界での消費に限定するべきだという意見も出ている。背景として昨年の3倍振興券発行時に「振興券の使用を拒否する小規模店舗が多く存在したこと」「1,000元の振興券を一度の消費で使用するなると使用先が限られたこと」「コンビニエンスストア・スーパーマーケット・デパートなどの大手企業が3倍振興券と独自のクーポンを引き換えるなどのキャンペーンを行ったことで恩恵を受けた業界が偏ってしまったこと」などがある。ただし、少額券の増加には更なる予算が必要となるため、今後も検討課題とされている。

 

 国民の間では、昨年の3倍振興券は確実に消費活性化につながったという実感がある。国会の発表でも、3倍振興券のGDPへの貢献度は最大で0.53%あったとされている。しかし、昨年は3倍振興券に続いて、以下のような振興券が立て続けに発表された。

 

 

表

 

 

 これにより、国民からは「税金が余っているのか」「種類がありすぎてわかりにくい」「そんな振興券が発表されていたなんて知らなかった」という不満が多くあがっていた。例えば、藝fun券は専用アプリをダウンロードして抽選申込を行い、利用にもアプリでQRコードを表示、店舗側に読み取ってもらう必要があった。さらに利用できる対象は、映画館・書籍購入など芸術にまつわるジャンルとされ、どの店で使えるのかわかりにくいなどの混乱を招いた。

 

 今年は5倍振興券計画を前に、各自治体が独自の計画を発表している。現時点で発表されているものとして、台北市は「台北通APP」を通してクーポンを発行する。新北市は夜市や市場で使用できる「新北特恵券」を発行する。桃園市は200元の5倍振興券を400元の「桃園好市券」と交換できるシステムを採用し、こちらも市場や夜市で使用できる。台中市は「美食振興券」、台南市は「台南振興有購讚」を発行する。高雄市は1000元の高雄券を発行し、実質「6倍振興券」とするそうだ。その他、観光客の減少で大きな打撃を受けた金門県は一人5000元の現金を支給する上、更に3000元の消費券の発行を検討している。澎湖県では、1000元の現金支給を決議した。

 

 私の住む桃園市ではこれまでにも数回「桃園好市券」を発行しており、8月にも抽選で2.5万人を対象として券が発行された。申込条件は「桃園市民カード」を持っていることで、私も申込むことができた。今回はオンライン上で市民カード番号、統一番号(外国人の場合は居留証番号)、連絡先電話番号を登録することで抽選申込ができ、当選するとショートメールでメッセージが届いた。案内メッセージ従いサイトで抽選結果・発券番号を確認し、セブンイレブンの発券機でレシートを印刷、レジに持って行くことで「桃園好市券」を受け取るシステムだ。コロナワクチンの意思登録・予約システムにも注目が集まっているが、こんなところでも台湾のITの強さを実感することができた。

 

 5倍振興券の発行は10月が予定されているが、昨年の混乱を踏まえ今年はどのような形になるのか。GDPへの貢献はどうなるのか。今後の展開に期待したい。

(単位 1元=ニュー台湾ドルは3.92円 8月17日時点)

 

 

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i.YUKO

写真 IRuniverse取材記者、フリーライター、フリーランス通訳/翻訳者(日‐中)

 2017年より台湾在住。3児の子育てをしながら、手作り食品の販売等、さまざまな活動を行う。

 趣味は、手芸、石鹸作り、台湾料理研究、旅行。

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