IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)が設立されたのは1988年国連の組織の一つとして多国間で地球の温暖化など気候問題を検討する3つのワーキンググループに各国の科学者・研究者が真剣な検討を長い期間、議論・研究してきた成果が2021年8月公表された第6次報告書の中で、科学的根拠として「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことは疑う余地がない」と結論づけられた。ここに至るまでに何と23年を要したのだ。ICPPは設立当初から「温室効果ガスがこのまま大気中に排出され続ければ、生態系や人類に重大な影響をおよぼす気候変化が生じる恐れがある」と訴えた。

 

 しかし6次報告で明確な結論が出るまでに、これまでの経緯の中で最も大きな影響を与えた研究者が居る。英イースト・アングリア大学(Univ. of East Anglia)のClimate Research Unit(CRU)の古気候学者Michel E. Mannが1998年に発表した地球の気温研究成果のグラフで過去600年の地球の気温を研究した結果、僅か半世紀の間に地球の気温が急激に上昇したグラフで、ホッケーのスティックの様な形状で、そう名付けられた。更に翌1999年には過去1000年間の地球の気温も発表した。

 


グラフ

 

 2009年12月にはコペンハーゲンでIPCCは実効性を伴う歴史的気候変動対策の合意書が作成される予定であった。2009年11月17日マン氏のメールに同僚を含む研究者のメールがハッキングされた事を伝えたハーカーのメールが届いた。CRU関係者のメールがハッキングされ世界中に流布され、古気候学者6名の研究成果に大きな疑問・非難やクレームを付ける政治家や圧力団体が繰り返し中傷する宣伝を流した。ウオーターゲート事件をもじってクライマートゲート事件として知られる騒ぎが起こり、サウジアラビアなど産油国だけでなく、米国でも大きな報道が世を揺り動かした。

 

 ハッキングされた情報が最初に届いたのはサウジアラビアで、次にロシアに届いた。その後世界中にハッキングされた情報が流布されて、マン氏らは苦境に陥った。しかしこのハッキングは明らかに気候変動否定論者を使った誹謗中傷である事は、米ペンシルベニア州立大学イースト・アングリア大学などが独立して調査を実施し、違法な研究ではない事が証明された。

 

 これらの詳細ないきさつはマン氏自身の著書The Hockey Stick and Climate Wars、邦訳:地球温暖化論争-標的にされたホッケースティック曲線、化学同人に詳しい。

 

 2021年8月16日、日経は豪BHPが、豪エネルギー大手ウッド・サイド・ペトロリアムへBHPの石油・ガス事業の売却の協議に入っている事が、伝えられた。BHPは、カナダのノロント・リソースのニッケル鉱山の買収や、又豪州でもEVバッテリー用の硫酸ニッケルプロジェクトも進めており、急速に化石燃料事業からの撤退を加速している。(MIRU記事)

 

 豪州ではRio Tintoは2018年石炭事業から既に撤退した。しかしBHPは売上の65%を占める鉄鉱石販売事業もあり、BHPは鉄鋼用の燃料炭の事業は継続する事を表明している。

 

 マン氏を含む6名のイースト・アングリア大学のCRUチームの成果が世界の温暖化に歯止めを掛ける役割の研究を最後まであきらめなかった事で、地球に住む人類全体に警鐘を鳴らしてくれた。2014年ICPP第5次評価報告書の5章に古気候学に関して「古気候学の記録から得られる情報」でイースト・アングリア大学のCRUの研究成果が記録された。

 

 第5次報告では、1750年から2011年までに放出された炭素累積量は5,450億トンで、累積量1兆トンになると地球の気温は0.8℃から2.5℃へ上昇すると予想されている。毎年100億トン以上の炭素が放出され続けている。6次報告では我々は既に1兆トンの60%を放出してしまったのだ。残りは40%しか余裕が既に無くなった。

 

 

表

IPCC第6次評価報告書から作成(朝日新聞2021.8.15)

 

 

 上記の表から、熱波、干ばつ、豪雨の順序で温暖化の影響が大きな役割をする事が良く判る。

 

 世界では熱波による火災が米国の西海岸や欧州のギリシャ、豪州などでも火災が人家まで及んでいる事が伝えられている。日本でも異常気温と豪雨が襲っている。梅雨でなない真夏に長期間の豪雨が各地を襲っている。日本の豪雨だけではない。ドイツでも経験の無かった豪雨で非鉄製錬でも影響を受けている。

 

 8月17日のニューヨークタイムズは、サンフランシスコのSales Force Towerビルは、コロナで閉鎖してきた間に、地下駐車場の2フローに、新たにトイレとシャワーなどの排水を再利用する6基のろ過装置からなる水処理設備を設置し、毎日3万ガロンの排水を処理水として再利用している事が伝えられた。西海岸のカリフォルニア、モンタナ、ニューメキシコ、ユタ州では建築物のデベロッパーは、建物の廃水のリサイクルを義務付けられていると。これらの州では干ばつが日常的だと伝えている。

 

 地球全体の気候予測モデルは、世界中で海水にブイを設置し、ブイは海表面だけでなく深海の温度、塩分の測定データを気象衛星へ送り、また地上ではラジオゾンデを飛ばして大気中の物理データを測定しており、北極や南極の氷河の大きさを測定し、気候への変動情報が把握されており、これらのデータを基に現在の気候予測モデルは非常に正確に気候変動を把握している。仮に政治的な温暖化否定論者が二酸化炭素の排出による温暖化を疑うものが現れてもICPPのデータが示す事実を否定する事は出来ない。

 

 2007年には、ICPPと「不都合な真実」の著者の米副大統領だったアル・ゴアには、ノーベル平和賞も贈られている。

 

 改めて我々も地球の住民として、家庭で使用する電気、ガス、水道の節約など日常的に出来る事に努力したい。

 

 

参考

 ・The Hockey Stick and Climate Wars, Michael E. Mann、邦訳:地球温暖化論争、化学同人

 ・The New York Times, Aug17,2021 Facing severe droughts, developer seek to reuse their dwindling resources.米西海岸の干ばつ

 ・朝日新聞 2021.8.15,p6「気候危機 人類への厳戒警報」IPCC報告書

 ・日経新聞 2021.8.17、BHP記事

 

 

用語説明:古気候学;

 気温の証拠を探して、過去の気候の特質を物理的、化学的、生物学的な記録から気温の代替データを使って間接的な証拠を得る。例えば数千年前の氷床コアに含まれる酸素の同位体比の変化から氷柱が採取された地点の過去の気温変化を読み取ることができる。深海底の層は、氷河期の始まりや終わりと言った地質学的に長期の変化の記録がある。

 

 

資料 ICPP他を巡る歴史

表

 

 

(IRUNIVERSE TK)