米国軍部隊の多くが撤退したアフガニスタンでは、仇敵タリバンの攻勢が続き、8月16日、ついに首都カブールに進攻し大統領府を掌握した。米国軍はイラクからの撤退も進める。イスラム国が再攻勢という事態は考えられないが、イラクに介入するイランの更なる増長をもたらすと懸念される。テロとの戦い、イラクの安定に重要な役割を果たす、北の半独立地帯・クルディスタン地域にもその圧力は強まるとみられる。(写真はYahoo画像から引用)

 

 イランの息がかかった勢力が牛耳るイラク中央政界と異なり、独自の立場をとるクルディスタン地域は、米国にとって貴重な信頼できるパートナーである。クルディスタンには民族、宗教の多様性を尊重する風潮があり、中東では珍しく親欧米だ。しかし、南北で異なる部族を背景とした政治勢力に支配され、政権・財政基盤が弱く、トルコ、イランといった隣国の介入を受けやすい。

 

 トルコは、イラク領内を拠点にしている自国のクルド勢力・クルディスタン労働者党(PKK)掃討を口実に、同じくPKKを敵視するクルディスタン地域政府を抱きこみつつ、国家が前面に出て不法な軍事行動を続ける。一方、イランは、革命防衛隊による裏工作、傘下のシーア・アラブ人の民兵集団をけしかけるなど、国家が前面に出ることなく背後で暗躍する。イランが仕掛けた陰謀の中でも大きなものが、シーア民兵による2017年10月の大油田キルクーク占領だ。

 

 イランはクルディスタン地域への内政干渉の手段として、イランから地域内に亡命したクルド系反体制派勢力に関する要求を突きつけている。イランの防衛評議会議長は10日、クルド人のイラク外相に、イラク政府として国内の反イラン勢力の追放に向け真剣な対応をすることを要請し、さもなければイランはあらゆる手段をとると伝えた、と報じられた。イランは、これまでも反体制派の拠点にロケット攻撃をするなどなりふり構わない暴挙に出てきた。

 

 イランは2018年9月、反体制派勢力、イラン・クルディスタン民主党(PDKI)のクルディスタン地域内における拠点にミサイルを発射し、11人が死亡した。また、裏工作といえば、PDKIの幹部によると、クルディスタン地域が自治を獲得してこの30年間で、450人以上の関係者が暗殺されたということである。

 

 トランプ米政権の末期、イラクでの工作活動に大きな役割を果たした、革命防衛隊ゴドス部隊のガーセム・ソレイマニ司令官(当時)は、業を煮やした米国によりとうとう殺害された。イランには今年6月、保守強硬派のライシ大統領が誕生した。バイデン米政権はいま、タリバンの急激な侵攻によりアフガニスタン情勢に忙殺されている。イランも反撃と言わんばかりに「攻勢」に出るだろう。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受ける。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。