新型コロナウイルスインド型(デルタ型)の感染拡大の中で計画されたオバマ元大統領の60歳を祝う誕生パーティーは、規模の縮小を強いられた。ライバルの共和党などからの批判を考慮した形だ。しかし、規模を縮小したにもかかわらずパーティーは3日間続き、ゴシップ系から高級紙まで幅広い米国メディアの格好のネタとなった。民主党は感染防止のためマスク着用を推進しているが、パーティーでオバマ元大統領がマスクをせずにダンスする動画がソーシャルメディアで広がり「民主党は二枚舌だ」との声が強まる。パーティーは民主党とバイデン政権の頭痛の種になってしまった。

 

 誕生パーティーは、オバマ元大統領の自宅があるマサチューセッツ州マーサズ・ビニヤード島で開かれた。8月4日がオバマ元大統領の誕生日で、その週末に計画された。当初は招待ゲストが約475人、スタッフが約200人の合計で約700人規模になるとみられていたが、批判を受けてオバマ元大統領側が、家族やごく親しい友人だけの会にすることを決めた。

 

 しかし、ふたを開けてみると誕生パーティーは、一般市民の常識を超える華やかなものとなった。地元メディアなどによると6日(金)、オバマ元大統領は地元のゴルフ場で友人らとプレーを楽しんだ。夕方以降は、近くのホテルのレストランで「前夜祭」が開かれた。

 

 7日(土)は誕生パーティーの本番。約11万7300平方メートルという広大なオバマ元大統領の自宅の一角に巨大なテントを張って特設会場を設けた。新型コロナ対策で屋外でのパーティーとなった。

 

 一連のイベントはこれでは終わらず、8日(日)も宴会は続いた。出席者は大西洋を臨むレストランに集まりブランチを楽しんだ。

 

 非公開パーティーなので出席者数は正式に発表されていないが、200人とも、300〜400人とも伝えられている。歌手のビヨンセと夫のジェイ・Z、映画監督のスティーブン・スピルバーグらがマーサズ・ビニヤード島に到着する姿を、待ち構えたパパラッチのカメラがとらえている。

 

 パーティーではシャンパンの「ドン・ペリニヨン」など高級酒がふんだんに振る舞われたという。

 

 会場内では出席者による写真撮影は禁止されていたが、パーティーの動画や写真はソーシャルメディアに流れた。その中にはオバマ元大統領がマスクをしないでダンスに興じる様子もあった。

 

 パーティーが解散となると島内の道路は大渋滞となった。空港やフェリー乗り場に向かう招待客の車が道をふさいだ。

 

 マーサズ・ビニヤード島のあるマサチューセッツ州ドュークス郡は圧倒的に民主党が強く、「リベラルな島」として知られる。

 

 オバマ元大統領やクリントン元大統領が現役時代に頻繁に訪れた。大統領が訪れれば他の政治家や要人もやって来る。政治家やセレブの「内々の会合」は日常的だ。今回の浮世離れしたパーティーに批判的な島民はいるが、こうした「内々の会合」は多くの島民にとってはいつもの光景で、島の経済にとっては良いことだという意見がほとんどだ。

 

 しかし、今の民主党にとっては、日頃の頭痛の種が一段と大きくなるイベントとなった。民主党は、共和党のトランプ政権を引きずり降ろしてバイデン政権を誕生させたが、党内は一枚岩になるどころか、中道派と左派(進歩派)の分断が進んでしまい、来年の中間選挙に向けて不安定な状況が続いている。

 

 オバマ元大統領の誕生日の1日前である今月3日に投開票が行われた下院オハイオ州11区補欠選挙の民主党予備選は、中道派と左派が二つに割れての選挙戦となった。オハイオ州11区は伝統的に民主党が強く、民主党予備選での勝者は11月の本選挙の勝者になるとされる。

 

 中道派は元国務長官のヒラリー・クリントン氏らが支援した地元・カヤホガ郡民主党議長のションテル・ブラウン氏。左派は元オハイオ州上院議員のニナ・ターナー氏で、上院議員のバーニー・サンダース氏や全国的に人気がある下院議員のアレクサンドリア・オカシオコルテス氏らが支援した。

 

 共に黒人女性で、互いを厳しく批判するテレビCMが放送されるなど、同じ党内の戦いとは思えないほどの「熱い」戦いだった。

 

 選挙戦では資金の集め方が大きな争点となった。ターナー氏の資金源は1口200ドル以下の個人からの小口寄付が中心。一方のブラウン氏は有力政治団体などからの大口寄付が多く、ターナー陣営はブラウン陣営の選挙資金を「汚いカネ」と批判した。

 

 結果は約51%の票を得たブラウン氏が、約44%のターナー氏を退けた。党主流派である中道派が辛うじて勝利し、バイデン政権は胸をなでおろした。

 

 敗れたターナー氏は「ブラウン陣営は何百万ドルという巨額な金で選挙を買った」と批判し、選挙が終わっても、しこりが残った。

 

 オハイオ州11区でのカネをめぐる争い、今の民主党内の対立を凝縮したものだ。左派は中道派を「金持ち優遇」と批判し、戦う姿勢を強めている。

 

 党内抗争が過熱した時に登場し、選挙での団結を促すのがオバマ元大統領の役割となっているが、そのオバマ元大統領がセレブな誕生パーティーを開いたことを、左派や進歩的な民主党員は当然、快く思っていない。民主党主流派やバイデン政権は、誕生パーティーの余波におびえている。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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