写真 欧州におけるEVの普及は、多角的なEUおよび加盟国政府の政策・規制により加速している。7月14日に欧州委員会が発表した気候変動対策への強化政策「Fit for 55」における炭素排出削減に向けた包括的な措置では、輸送セクターにおける規制強化にも焦点が当てられた。その中では、自動車の炭素排出の制限基準引き上げが行われ、2035年までには、新車はすべて炭素排出ゼロであることが義務付けられており、各輸送手段のEVへの移行は今後必然的なものとなる。EVの大幅普及に伴い、将来的に使用済みEV が増加することも必然的となるため、現在欧州各国では、その対応への準備が始まっている。

 

写真 オランダは、EU域内では、国内の電気化やサーキュラーエコノミー推進をリードする国の一つだが、自動車解体業界でも、EVの普及を受けて処理への対応も始まっている。

 

 その中で、オランダの自動車リサイクラーVan Boxtelは、国内で初めて使用済みEV処理を開始した業者で、EVを安全に保管するプールや可動用電池の保管用コンテナを独自に開発したEV解体における先駆者である。今回、IRuniverse(MIRU)では、Van Boxtelへ取材、同社における使用済みEV処理の現状と今後について話を聞いた。

 

 

写真EV処理への特化を目指して

 欧州における解体業者の多数を占める家族経営会社Van Boxtelの創業は30年前に遡り、現在は解体専用と事故車・破損者専用の2件の施設を兄弟で運営している。主要業務は、自動車の解体と中古部品の販売だ。年間の使用済み自動車処理数はEV(ハイブリッドを含む)を含めておよそ1000台となっている。Van Boxtelは、国内で初めて駆動用電池の保管庫と、事故などで電池が破損し、火災の危険性の高いEVを安全に保管する「EV用プール」を開発したことで知られている。

 

 Van Boxtelの販売担当主任Robbert Van Der Kuijl氏によると、現在オランダでは、使用済みとなったEVの取り扱い基準の設置を準備しており、今年の終わりにも施行される予定だという。従って、現在はまだ政府による認定制度はなく、使用済みガソリン車の認定解体業者(以下ATF)が、駆動電池の安全な取り扱いや保管について、研修や訓練を受け、自動車メーカーが提供するスペックに沿う安全措置に従うことで対応している。オランダの政府による基準設定には、Van Boxtelが開発したプールや保管庫などの安全設備の設置義務が盛り込まれることになっているそうだ。

 

写真 目下のところ収益性の高い使用済みEVの処理へいち早く対応しようと、Van Boxtelは、社内の施設におよそ10万ユーロ(約1,300万円)を投資、EVを安全に扱える設備を整えた。安全性の問題が大きいことから、欧州でも、まだ使用済みEVを扱う解体業者は少なく、Van Boxtelは、遠くはロシアやリトアニアなど、欧州各地から使用済みEVの回収を行っている。回収先は主に自動車メーカーや保険会社などのEV最終所有者だ。過去3年間で400台のEV(ハイブリッドを含む)を回収した。欧州各地からの使用済みEVの回収依頼の多くは、Van BoxtelのEV用施設について知る人からの口コミや、同社のホームページを通じての問い合わせによるものだという。

 

 

EV処理の収益性は?

 気になるEV処理のコストと収益について聞いてみた。コストを差し引いた後のEV処理の利益については、およそ20%前後になると言う。最も利鞘の高い中古部品は、電池やエンジンだ。電池については、車種によって大きく異なるが、およそ1000ユーロ(約13万円)から12,000ユーロ(約160万円)で再販される。部品の主な販売ルートは、英語をはじめ、オランダ語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、ポーランド語など多言語に対応するオンライン部品販売プラットフォームで、欧州だけでなく、中東やアジアからも注文が入る。再販ができない電池については、リサイクル行きとなる。その場合は、Van Boxtelが提携するオランダの生産者責任組織ARNが回収を行い、電池のリサイクラーへ持ち込まれるシステムだ。その際の輸送コストは、ARNが負担する。

 

 EV処理の収益は、ガソリン車に比べ高いかとの問いに対し、Van Der Kuijl氏は、「現在は、収益は非常に高い。ただし、将来廃 EV時代が来れば、全てのATFが競合となり、部品の価格も下がります。現在の収益率を維持することは難しい。そのために、我々はEV処理の先駆者を目指したのです」と述べた。

 

 ガソリン車との比較で、使用済みEVの処理における最も大きな課題は、「とにかく安全性の問題です」とVan Der Kuijl氏は断言する。特に現在回収されているEVのほとんどは事故車や破損車のため、処理施設での保管における安全性の確保は死活問題だという。「破損した電池の発火は、瞬く間に起こります。安全性への対応を怠れば、これまで何十年もの間我々が築いてきたものを、一瞬にして失うことになる」と同氏はその重要性を再度強調した。同時に、「EV処理における安全性の確保は最重要課題ですが、これは設備を整え、技師を訓練することで、確実に対応できます。この点は、これまでのガソリン車の処理と大きく異なりますが、十分対応していけるものです」と付け加えた。

 

【取材協力】Mr.Robbert Van Der Kuijl, Head of Sales, Van Boxtel, the Netherlands

会社ホームページ:https://autodemontagevanboxtel.nl

 

 

(Y.SCHANZ)

 

 

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SCHANZ, Yukari

 オーストリア、ウィーン在住フリーライター。現在、ウィーンとパリを拠点に、欧州におけるフランス語、英語圏の文化、経済、産業、政治、環境リサイクル分野での執筆活動および政策調査に携わっている。専門は国際政治、軍事、語学。

 趣味は、書道、絵画、旅行、フランスワインの飲酒、カラオケ、犬の飼育。

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