米財務省は7月28日、トルコ傘下のシリア反体制派武装勢力「東方の自由民」を制裁対象に加えたと発表した。(写真はYahooの画像から引用)

 

 「東方の自由民」は、素行の悪さを理由にトルコ占領下のアフリンから一度追放されたほどのゴロツキ集団である。トルコがユーフラテス川東岸地域に侵攻を開始した2019年10月、「シリア未来党」という新興政党に所属する女性議員らの搭乗する車が、この武装勢力のメンバーに制止された。降ろされた議員はその場で「処刑」の名の下に惨殺された。

 

 こうした蛮行に国連も民間人に対する暴力へと併せて調査を要求していた。その当時は、トランプとエルドアンの両大統領の蜜月が頂点に達していた時期でもあり、米国は本件を事実上、黙殺した。人権重視のバイデン米大統領は容赦なく、アサド政権の面々と並びにトルコの支援を受ける反体制派勢力にも「人権抑圧者」の烙印を押した格好だ。

 

 トルコ傘下勢力と敵対するクルド勢力中心のシリア民主軍(SDF)は声明で、米国の決定を初めての一歩と評価し、さらなる人権侵害への追及を求めるとした。トルコ国営通信は、アサド政権関係者が制裁対象に加えられたことを中心に報じつつ、「東方の自由民」も加えられたことを淡々と伝えた

 

 米国はバイデン政権に代わってから、トランプ政権末期のエルドアン政権への遠慮を打ち捨て、アルメニア人大虐殺の認定少年兵使用国リストへの追加など、トルコへ強いメッセージを打ち出してきた。今回は、トルコ国家そのものへの措置ではないが、明らかにシリアにおけるトルコの活動を牽制するものである。

 

 さらに先月、米院の民主党議員が、ブリンケン国務長官にトルコへのドローン輸出規制を求める書簡を送った。この議員は、トルコによるドローン利用をコーカサス、地中海など地球上あらゆる地域の不安定化をもたらすものと主張した。カナダは、トルコとのしがらみはないため、4月にトルコへ一部の軍事技術輸出を停止する措置を打ち出した。昨年のアルメニア―アゼルバイジャン紛争で、トルコ製ドローンの目標捕捉システムなどにカナダ企業の技術が使われていたことなどを、その理由としている。

 

 一方、米国はトルコが敵対視するシリアのクルド勢力への肩入れを止めようとする気配を見せない。2日、SDFの軍学校の卒業式が行われたが、米国軍中心の対イスラム国有志連合の関係者も出席した。米中のみならず、米国とトルコのデカップリングも静かに進みつつある。

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。