電気自動車(EV)の需要が高まるなか、リチウムイオン電池の製造工場の建設計画が世界規模で進んでいる。日本でもこのほど、国内最大級となる新工場の建設工事がスタートするとのニュースが伝わった。(画像はエンビジョンAESCジャパンが建設する新工場の完成イメージ)

 

エンビジョンAESCジャパンが茨城県に国内最大級の新工場を建設へ

 

 リチウムイオンバッテリーの開発・製造・販売で知られる、車載電池大手のエンビジョンAESCジャパン(本社:神奈川県座間市)は8月4日、茨城県内に国内最大級の新工場を建設すると発表した。大手メディアの報道によると、生産能力は最新の電気自動車(EV)で7万台分からスタートし、将来的に20万台分まで伸ばすという。総投資額は500億円。2024年に稼働し、日産自動車をはじめ、自動車メーカーなどに拡販する予定だ。新工場は座間市の工場(3万台分)に次いで、国内2カ所目となるそうだ。

 

 新工場は茨城中央工業団地(茨城町)に建設する。立地面積は36万平方メートルで、7万台分の生産能力は国内最大級となる見通しで、今年10月にも着工する。茨城県が20億円の補助金を拠出する。将来的に500億円を追加投資し、生産能力を3倍まで増やす。建設工事にともない、400人を雇用し、規模拡張とともに1,000人まで増やす計画という。

 

ボルボとノースボルトがEV電池工場の設立で合弁を設立

 

 欧州では6月下旬、スウェーデンのボルボ・カーズ・グループと、電池メーカーであるノースボルトがEV用電池を開発、生産する均等出資の合弁会社を設立すると発表。国内に研究開発センターを設立し、2022年に稼働を始めるとした。

 

  また、欧州域内にEV電池生産工場を新設し、2026年から生産をスタートする計画だ。合弁会社で生産した電池は、ボルボと傘下のEVブランドであるPolestarの次世代EVに搭載する。

 

 研究開発センターでは、ボルボがノースボルトのシェレフテオ電池生産工場で生産した年間15GWhの電池セルを調達することも検討しているようだ。生産工場の立地はボルボのEV生産工場の近くになる見通しで、新工場で使用する電気は100%再生可能エネルギーで賄う。

 

  約3,000人を雇用し、年間生産能力は最大50GWh。ボルボが工場設立を急ぐ背景には、同社が2020年代半ばまでに販売する自動車の半分をEVにし、30年までにラインアップのすべてをEVにするという目標を達成するためとされる。

 

韓国勢がインドネシアでEV電池工場を建設へ

 

 アジア地域でも動きがある。韓国の現代自動車とLG化学は7月29日、インドネシアにEV向けの電池工場を建設すると発表。投資額11億ドル(約1200億円)を折半負担する。電池を量産し、現代自と起亜の完成車工場に供給する予定だ。

 

 ジャカルタから南東約65キロメートルのカラワン地区の工業団地にある敷地(面積は33万平方メートル)に新工場を設立する。2024年には量産を始める。年間生産能力は10GWh時で、EV15万台分の電池を供給できるという。現代自と起亜は今後5年間で計23車種のEV新モデルを発売する計画だ。

 

世界の趨勢に英国自動車団体が危機感-政府にEV工場建設を進言

 

 英自動車製造者販売者協会(SMMT)は今年6月末、国内自動車産業にかかわる新計画を公表し、英国政府に対し、2030年までのロードマップを示した上で「EV電池工場の建設が急務である」と進言した。

 

 SMMTは新計画で2030年までのEV向け大型電池工場の建設によって「60ギガワット時(GWh)の生産容量を確保すべきである」と主張。それに加え、230万台分の公共充電ポイントを全国規模で展開する必要性を強調した。この計画が実行されなかった場合、自動車産業にとどまらず、鉄鋼や化学、金融など広範囲に経済的なダメージが生じると警告した。

 

 2030年までにガゾリン車とディーゼル車の新車販売を禁止することを宣言している英国政府の取り組みは不十分とし、今後2年間で国内の自動車産業が国際競争力を維持できるか否かの分かれ目になると付け加えた。

 

 世界の自動車産業にとり、EV電池を安定的に確保できるか否かは死活問題だ。SMMTの英国政府への進言は、そのまま日本政府にも当て嵌まるといえるだろう。



 

在原次郎

Global Commodity Watcher