持続可能な航空燃料(SAF=Sustainable Aviation Fuel)の導入に向けた動きが日本でも活発となってきた。ANAホールディングスと日本航空(JAL)が海外産SAFを一部導入済みだが、日揮ホールディングス(日揮HD)とコスモ石油などがこのほど、バイオ航空燃料で国内初の商用化を目指すと表明。これに加え、日本政府は水素燃料を保管・貯蔵し、機体に供給するためのインフラ整備の検討に乗り出すという。(チャートはバイオジェット燃料製造サプライチェーンモデル開発の概要、コスモ石油のニュースリリースから転載)

 

 日揮HD、コスモ石油、レボインターナショナル(京都市)、日揮HDの国内EPC事業会社である日揮はこのほど、バイオ航空燃料を2025年から大阪府で生産し、国内初の商用化を目指すことを明らかにした。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のバイオジェット燃料生産技術開発事業における公募事業に採択されたという。

 

 日揮HDなど4事業体は今後、バイオジェット燃料製造・供給開始に向けた事業検討費用、バイオジェット燃料製造設備の装置設計・建設費用、実証運転・用役供給費用、原料となる廃食用油の入手可能性・コスト調査費用などに対し、NEDOから助成金による支援を受ける予定だ。

 

 この事業を通じてバイオジェット燃料サプライチェーン構築に向けた事業開発を加速させ、2025年までにバイオジェット燃料製造設備の稼働、供給を目指し、温室効果ガス(GHG)排出量の削減を推進し、持続可能な循環型社会の形成につなげる。

 

 今後のSAF拡大が見込まれる航空需要予測を背景に、二酸化炭素(CO2)排出削減による地球温暖化防止策が国際民間航空機関(ICAO)をはじめとした航空業界における喫緊の課題となるなか、その対応策の一つとしてバイオジェット燃料の導入が必要不可欠と位置付けられる。

 

 他方、日本政府はこのほど、航空機燃料として水素の実用化を目指すため、空港内で水素を大量に保管・貯蔵し、機体に供給するためのインフラ整備に乗り出す。経済産業省、国土交通省などが官民で構成される検討会議を8月にも設置、今秋をめどに水素燃料航空機の実現に向けた法改正、施設整備に向けたコスト試算、安全対策、テロ防止策などの課題を整理するとしている。

 

 日本政府や企業がSAF導入に向けた動きを加速する背景には、この分野で先行する欧米企業を意識してのことだ。今年に入ってからも海外の航空機会社のSAFにかかわる情報が伝わっている。

 

 ボーイングは今年1月、持続可能な商業飛行につなげるため、2030年までにSAF導入に向けた野心的ともいえる目標を公表した。同社はこれまで、気候変動問題に対応する目的で、化石燃料の代替としてSAFを利用したテスト飛行を繰り返してきた。世界的な脱炭素の潮流を受け、SAFの100%導入を早めた格好だ。

 

 同時期、オランダのKLM航空も「SAFプログラム」を発表。これまで取り組んできたKLMバイオ燃料プログラムをSAFプログラムに名称変更することで、SAF導入に取り組んできた姿勢を国内外にあらためて周知させるのが狙いのようだ。KLMのバイオ燃料プログラムは2012年にスタートし、ABN AMROやスキポール・グループなどが参画している。SAFはジェット燃料と比較して二酸化炭素(CO2)を85%削減できるものの、コスト面で高くつくとされ、これをいかに解決できるかが課題とされてきた。

 

 他方、エッサー・オイルは2月下旬、フルクラム・バイオエナジーの子会社であるスタンロー・ターミナルズとともにSAF導入に向けて動き出したことを明らかにした。約6億ポンドを投入し、米ネバダ州リノ郊外に設置する最新鋭の設備で今年後半にも生産を開始する予定だ。スタンロープロジェクトで800人の新規雇用を生むとしている。

 

 4月には仏トタル・エナジーズが国内のバイオリファイナリーで食用油を原料とするSAFの生産を開始した。CO2削減でカーボンニュートラルを目指すトタル・エナジーズにとり、SAFの開発は戦略的な事業の一つと位置付けられている。

 

 SAF開発は一企業の取り組みでなく、国家が後押しするプロジェクトとなっているのが実情で、空の覇権争いは今後、いっそう熾烈さを増すと予想される。

 

在原次郎

Global Commodity Watcher