2014年以来、東のハフタル将軍率いるリビア国民軍、西の暫定政府の間で内戦を続けたリビアは、2019年のリビア国民軍による攻勢、暫定政府側についたトルコの介入により混迷を深めた後、両陣営の休戦と和平交渉の再開により3月に両陣営が参加する暫定政府が樹立された。こうした状況下、今年12月24日に選挙を控えるリビアに再びイスラム国の影がちらついている。(写真はYahoo画像から引用)

 

 イスラム国とみられる勢力が、リビア南西部において、軍の施設などに攻撃を仕掛ける事件が相次いでいる。先月24日、イスラム国とされる勢力が、犠牲祭を祝う構成員の様子をウェブ上に公開したのである。それら写真には「聖なる犠牲祭期間中のリビアにおけるカリフの兵士」と題されていた。公開された写真はどれも羊を捌いたり、ケバブを食べる様子など、政治的、軍事的要素は見られないが、イスラム国の名において発信されたことで衝撃が広がった。

 

 リビア軍は、先月24日に発した声明によると、南部におけるイスラム国掃討作戦を開始するということである。本任務は「容易ではない」ということである。リビア軍の分析官によれば、イスラム国はアルジェリアや、また、チャドとの国境地帯でテロ活動が盛んになっているということだ。

 

 リビアといえば、イスラム国が拠点を置いたシリア・イラクから海により隔てられているにも拘わらず、強固な勢力築いた奇妙な国でもあった。イスラム国の拠点は、東西のちょうど真ん中に位置し、製油所と石油輸出港として有名なシルトであり、石油を狙う外国勢力の思惑を感じさせるものであった。

 

 リビアのイスラム国について、一つ明らかだったのはトルコから、シリア、イラクから戦闘員がリビアに渡るルートが確立されていたということである。また、最近、トルコ製の小銃がイスラム国の拠点より発見されたという情報が写真と共に出回っている。リビア軍が訓練で使用していたものと同じではないかと指摘されている。これが事実として、トルコがイスラム国の支援をしていた証拠となるわけではない。

 

 リビアなどの紛争国では、支給された武器を闇市場に横流しするのはごくありふれたことだからだ。今回、不可解なのは、イスラム国と思しき集団が確認されたのが、南部であるということである。リビア南部は東西いずれの勢力下にもない部族地帯が広がっている。イスラム国が好む力の空白ではあるが、前述のシルトのように、重要拠点もなく、そこに根を張る目的が不明だ。どの国や勢力が支援しているかも見えてこない。

 

 リビア暫定政府は、テロとの戦いを遂行できるのかという疑念を払拭できていない。イスラム国の跋扈を許してきたのは、他ならぬ暫定政府だからである。リビアの政治学者は、ハフタル将軍のみ外国勢力と結託したテロリストを駆逐することができると評価する。イスラム国も、外国勢力の手先とみなされている。そのハフタルは30日、改めて、リビアの平和は外国部隊とその傭兵を追放することなしには実現できないと訴えた。南部のイスラム国掃討作戦は、暫定政府の評判を貶めハフタルの声望を高める結果となるのか。クリスマスに実施予定の選挙結果、西部と東部が参加する現在の暫定政府の存続を左右するため注目する必要がある。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。