2013年7月26日、世界のエネルギー地勢図を塗り替え、石油・天然ガス開発で「シェール革命の父」と称されたジョージ・P・ミッチェルが老衰のため、静かに息を引き取った。彼こそがフラクチャリング(水圧破砕工法)を応用し、シェ―ルガス採掘を商業ベースに乗せた立役者だった。(写真はイメージ。Yahoo画像から引用)

 

 ミッチェルは1919年、石油産業の町、米テキサス州ガルベストンで生まれた。テキサスA&M大学で石油工学を専攻した後、独立ベンチャー系の石油掘削会社(ミッチェル・エナジー)を興した。

 

   エネルギー開発一筋に歩んできたが、1980年代に入り、これまでのような在来型とされる掘削ではガスを十分に取りだすことが困難になってきたため、他の方法がないかを模索し始めた。

 

 そうしたなか、ミッチェルはバーネット頁岩層に目を付けた。頁岩という名称の通り、ミルフィーユのように岩層が一枚一枚重なり合ったように形成されている。ここに薄い空洞が点在するのだが、ミッチェルはここから原油やガスが採取できないかと思案したようだ。

 

 水圧破砕工法は、プロパント(砂)と化学物質を加えた大量の水を地上から高圧で流し込み、頁岩に割れ目をつくる手法だ。この割れ目から天然ガスや原油が流れ出てくる。この工法の確立によって米国ではシェールオイル・ガス生産が急激に増加するようになった。世界のエネルギー事情を一変させる「シェール革命」につながった。

 

 ところで、頁岩層からガスを採取した最初の人物がミッチェルであったとするのは誤解だ。彼が水圧破砕工法や水平掘りを発明したわけでもない。それぞれの工法は以前から行われていた。ミッシェルが評価されるのは、当時、これらの工法を応用し「シェ―ルオイル・ガス採掘を商業ベースに乗せたこと」にある。

 

 石油とモータリゼーションを武器に世界の覇権を掌握した米国。94歳で死去したミッチェルの石油・ガス開発に捧げた人生は、20世紀の米エネルギー産業史と重なり合う。彼はアメリカン・ドリームの体現者でもあった。

 

在原次郎

 Global Commodity Watcher。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口に国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。