経済混乱、政情不安の続くベネズエラでいま、同国に参入した海外エネルギー大手や金融機関が事業売却などで資産を整理する動きが目立ち始めた。こうした流れは今後も続くとの見方が少なくなく、マドゥロ独裁政権の経済運営はより厳しさを増しそうだ。(写真はYahoo画像から引用)

 

 ノルウェーの大手エネルギー企業であるエクイノールはこのほど、ベネズエラ国営石油会社のPDVSAと共同で所有するCorporación Venezolana del Petróleo(CVP)の石油プロジェクト(Petrocedeño)にかかわる権益をすべて手放したことを明らかにした。この計画は、オリノコ・ベルト一帯で産出された超重質油を軽質油に転嫁させるプロジェクトである。

 

 政情不安のベネズエラで化石燃料ビジネスに関与することは、脱炭素への移行を重視するエクイノールにとって得策でないと判断したのかもしれない。仏トタルエナジーズもこのプロジェクトから撤退する意向を示している。

 

 ベネズエラのマドゥロ政権と近い関係にあったロシアも例外ではない。国営石油大手のロスネフチは昨年3月末、ベネズエラで所有するすべての権益をロシア政府が株式を100%所有する企業に売却し、石油販売などの事業を終了すると発表済みだ。

 

 ロスネフチによると、売却する権益はPDVSAとの合弁石油ガス開発企業のペトロモナガス、ペトロペリハ、ボケロンなどだ。株式売却により、ロスネフチは自己資本比率を9.6%増やすとのコメントを発表した。株式放出の理由についてロスネフチ側は上場企業として株主保護を上げている。

 

 市場関係者の間では当時、株主保護というのは名目で、米国による対ベネズエラ経済制裁の一環が影響しているとの見方が出ていた。ロスネフチが株式売却を正式発表する約1カ月前、米国はロスネフチ子会社のロスネフチ・トレーディング、TNKトレーディング・インターナショナルに相次いで制裁を課した。米国側は、これら2社がベネズエラ産石油販売にかかわったためと説明した。

 

 ところで、ベネズエラでの事業から撤退するのはエネルギー企業だけではない。シティグループは今年7月半ば、ベネズエラで展開する事業部門を同国のバンコ・ナシオナル・デ・クレディト(BNC)に売却することで合意し、規制当局の承認も得ていると発表した。近く手続きを完了することも公表済みである。

 

 シティは1917年にベネズエラ市場に進出、個人・法人向けに金融サービスを展開してきたという。今回の決定で事業から手を引くことで、100年超に及ぶ営業に終止符を打つことになる。

 

 ベネズエラでは2019年、マドゥロ大統領の2期目がスタートしたものの、欧米諸国は現体制の正当性を認めず、原油輸出や金融取引などにかかわる経済制裁を発動している。

 

 トランプ前政権からバイデン現政権に代わっても、マドゥロ氏が大統領職にとどまる限り、米国の対ベネズエラ制裁が緩められることはないとの見方が一般的だ。ロスネフチ撤退は当時のトランプ政権がベネズエラとロシアの切り離しを画策した結果だったとの見方もあった。

 

 新型コロナウイルスの感染状況が収束に向かうどころか、再び感染拡大の様相を呈するなか、米国が対ベネズエラ経済制裁を継続すれば、エクイノールやシティグループのようにベネズエラ市場からの撤退を決める企業が後に続くだろう。

 

 他方、ロシアとともにマドゥロ政権を支持する中国が、間隙を縫ってベネズエラへの積極的な進出にさらに拍車をかけるかもしれない。ベネズエラからの欧米企業の撤退よりも中国の出方が最大の焦点となりそうだが、そうもいなかいようだ。

 

 中国政府は今年 5 月末日、ベネズエラのメレイ原油(超重質油)を含む重質油の輸入に1バレル当たり30ドルの関税を6月12日付で課すことを発表した。中国が関税を課すことになると、ベネズエラ経済には計り知れない打撃となる。ベネズエラの石油輸出先はほとんどが中国で占められているとされる。中国の後ろ盾を失えば、マドゥロ政権は孤立無援となり、より暴走する可能性も否定できないだろう。

 

在原次郎

Global Commodity Watcher