温室効果ガス(GHG)削減に向けた次世代エネルギーとして、燃焼の際に二酸化炭素(CO2)を排出しないアンモニアに注目が集まっている。東京電力ホールディングスと中部電力が出資するJERAがマレーシア国営石油企業と協業に向けた覚書(MOU)を締結したほか、伊藤忠商事などの日本企業もロシア企業と連携し、ブルーアンモニアのバリューチェーン構築に向けた事業化調査(FS)に乗り出した。(画像はアンモニア・バリューチェーンのフロー図。伊藤忠商事の公式HPから転載)

 

 伊藤忠商事は7月初旬、イルクーツク石油(IOC)、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、東洋エンジニアリング(TOYO)と共同で東シベリアと日本間のブルーアンモニア・バリューチェーン構築に向けて2020年度実施のフェーズ1に続き、フェーズ2として事業化調査(FS)を実施することで合意したことを明らかにした。

 

 伊藤忠商事とTOYOはフェーズ1同様、東シベリアでIOCが産出する天然ガスをアンモニアに変換し、日本に輸送するバリューチェーンのマスタープランを構築するとしている。

 

 フェーズ2では、東シベリアから日本への大規模なブルーアンモニアバリューチェーンの事業化に向けて、IOCの東シベリアの油田で産出される天然ガスから水素、さらにはアンモニアを製造するための概念設計を実施する。

 

 概念設計では、生産過程で排出する二酸化炭素(CO2)をIOCが東シベリアに保有する油田増産のため、CO2-EOR(CO2圧入による原油増進回収法)の組み合わせを想定。また、アンモニア内陸輸送については鉄道とパイプラインの適用を検討するという。

 

 伊藤忠商事は現在、東シベリア地域での原油の探鉱・開発・生産でIOCと協業している。脱炭素社会を目指すなか、今後燃料としての新たな市場が期待されるアンモニアの生産、効率的な輸送を実現して、日本市場にブルーアンモニア(従来の化石燃料由来のアンモニア製造プロセスによって生成されるCO2を地下に隔離する二酸化炭素回収・貯留=CCS)や、CO2-EORの工程に加えることで製造されるアンモニアを安定供給することを目指す。

 

 伊藤忠商事、IOC、JOGMEC、TOYOの4社は昨年末、東シベリア日本間のアンモニア・バリューチェーンに関する共同事業化調査を実施することに合意済みだ。アンモニアは一般に流通している液化石油ガス(LPG)の液化条件とほぼ同じであるため、同様のインフラで輸送、貯蔵することが可能となる。アンモニアは、燃焼時にCO2を排出しないため、火力発電所や船舶用エンジンの次世代燃料としても注目を集めている。

 

 このほか、JERAはマレーシアの国営石油・天然ガス会社であるペトロナスと脱炭素分野などでの協業に関する覚書(MOU)を締結した。石炭の利用を廃止し、液化天然ガス(LNG)にかかわる需要が世界市場で増加しているため、とりわけ、アジア諸国でのLNG利用の促進、アンモニアや水素燃料のサプライチェーン構築を確立する。ペトロナスはアンモニア製造事業者としても知られ、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニアの製造についても検討を進めている。

 

 他方、大阪ガスはこのほど、豊田自動織機とともにアンモニア燃料の小型エンジンシステムにかかわる技術開発で実証実験を開始するなど、国内企業同士の連携強化の動きも出始めている。両社は2022年度末までに製品開発に必要な基本技術の確立を目指すとしている。

 

 国内企業がアンモニア生産を強化する背景には、政府の方針も関係しているようだ。経済産業省は今年に入り、アンモニアの国内消費量を2019年の約108万トン/年から30年に300万トン/年、50年に3,000万トン/年とする計画をまとめた。アンモニアは現在、肥料向け、工業用が主流となっているが、今後は石炭火力発電の燃料として活用する。こうした目標を掲げ、需要を喚起することで、政府は市場参入を目指す企業の増加につなげる狙いがある。


 

在原次郎

 ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。