7月14日、パキスタンのハイバル・パフトゥンフワ州(KPK)のダスに近いエリアで中国人技術者の乗るバスが「攻撃」された。ダス近郊ではダムが建設中であるが、彼らを乗せたバスが、現場へ向かう途中爆発し、そのまま付近の川に転落したという。中国人9人を含む、13人が死亡したと伝えられている。このダム建設は、中パ経済回廊(CPEC)の一環であり、いわば中国の肝いり事業であった。(写真はYahoo画像から引用)

 

 パキスタン情報通信相は翌15日、爆発物の痕跡を発見したとツイートした。パキスタン側は当初、本件をガス漏れなどによる「事故」と主張していたが、中国側の真相解明と中国人の安全確保の徹底要求に押され、テロ攻撃であることを認めたということだ。在パ中国大使館も声明を発しており、「ダム建設事業に関係する中国人9人、パキスタン側にも死者が出た」、「原因については調査中」としている。テロという言葉は使用していないものの、現地在住の中国人に不要不急の外出を控えるよう呼びかけている。

 

 この背景に、米国がアフガニスタンからの撤退を開始したことはあったのだろうか。タリバンの勢力は、日々強まり、パキスタン情勢にも当然影響してくる。アフガン人ことパシュトゥン人は、パキスタン第二の人口を誇り、事件のあったKPKは、パシュトゥン人の州である。タリバンは、事件があったのと同じ日、パキスタンとの国境を制圧したと発表した。

 

 中国を狙ったテロ攻撃といえば、バローチスタンが有名である。バローチスタンは、資源が豊富な地でありながら、パキスタン建国以来、民族紛争が燻っており、そこに中国が進出し事態を複雑にしている。バローチ民族主義系勢力のみならず、イスラム過激派勢力も中国人攻撃に参加している。地元民の支持を得るために、中国人攻撃は手っ取り早い方法なのだろう。中国はかつて、中ソ対立により、ソ連と戦うムジャヒディンを支援していたとされる。タリバンとも、干戈を交えた米国に比べれば、取引の余地はあると言える。中国は、米国の撤退でアフガニスタンに生まれた力の空白を埋めるかもしれないが、新疆の反中国勢力を勢いづけることを恐れているともいわれる。

 

 タリバンもそのことは理解してるはずである。今後、タリバンがパキスタン領内の傘下勢力を使い、中国人、中国関連施設を攻撃させ、その一方で、パキスタン国家とテロ組織の窓口になっている軍統合情報局を通じ、中国と取引ないし強請りを試みることもあり得る。今回の事件の背景は依然として不明であるが、米軍のアフガン撤退とタリバンの勢力拡大が、中国の一帯一路にも思わぬ影響を及ぼしうることを示唆した。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。