文学者の創作意欲を刺激するため、コーヒーは不可欠だった!!-その代表的な人物がフランスの文豪オノレ・ド・バルザックとヴォルテールだった。(写真はバルザック、Yahoo画像から引用)

 

 百科全書派で知られるディドロやダランベールとともに、ヴォルテールは封建制度と専制政治を批判し、理性と自由の大切さを訴えた。「機智の王」と称された彼は、哲学や歴史のほか、風刺小説や叙事詩などを数多く発表した。人生を終えるまで毎日60杯のコーヒーを飲んだという。

 

 伊藤博著『コーヒー博物誌』(八坂書房)によると、ヴォルテールの健康を気遣う人が「そんなに多くのコーヒーを飲むのは体に悪いのではないか」と聞いたところ、ヴォルテールは「もう何十年も、そういわれている。私は80年間、コーヒーを飲み続けているが、まったく何ともないよ」と答えたそうだ。

 

 フランスの啓蒙思想家ジャン・ジャック・ルソーは、カフェで生涯を過ごすといわれたほど、カフェ通いで有名だったが、ヴォルテールもルソーが通い詰めた「カフェ・プロコプ」の常連客だった。

 

 一方、『人間喜劇』などの作品で知られる文豪バルザックもヴォルテールに負けず劣らずのコーヒー愛飲家であった。バルザックにとり、コーヒーは飲み物ではなく、食物であったとされるほどだ。コーヒー中毒患者と呼ぶ人たちも少なくない。

 

 フレデリック・ロートンが著した『バルザック』では「彼(バルザック)は夜6時に床につき12時まで眠り、その後は起きてほとんど12時間ぶっ続けで仕事をし、その間に自分を刺激するためにコーヒーを飲むのが習慣であった」と記されている。ちなみにバルザックが飲んだコーヒーの量はヴォルテールを凌ぐ1日80杯だったという。「コーヒーこそ、バルザックが真夜中の創作に求めた秘薬だった」(『コーヒー博物誌』)。

 

 バルザック自身はコーヒーについて、次のように書き残している。「諸君の胃袋の中にこの香り高い飲み物が入ると、コーヒーはすばらしい活動を始める。それはあたかも戦場において大歩兵部隊が迅速に機動しながら、戦いを進めていくさまに似ている。記憶は風のように駆け戻り、頭脳の論理的な働きは、思索の関連を保ちながら騎兵隊のように展開する。ウイットはたちまち成り、原稿用紙は名文に充ちてしまうであろう」。

 

 ヴォルテールが84歳まで存命したのに対し、バルザックは51歳で生涯を閉じた。コーヒーを飲みすぎたバルザックは視神経を冒され、さらに心臓病にかかってしまったといわれる。コーヒーの過剰摂取と発病との因果関係はさておき、コーヒーが存在しなければ、バルザックが数々の名作を世に送り出すことはなかったかもしれない!?

 

在原次郎

 ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口に国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。『週刊エコノミスト』などに寄稿。