脱炭素化社会の到来で世界の石油業界をめぐる経営環境が激変している。とりわけ、欧州では石油精製企業の多くがバイオ燃料に活路を見い出す動きが鮮明となっている。最近の動向を追ってみた。(写真はNeste本社。同社の公式ウェブサイトから転載)

 

 フィンランド Neste では、製油所運営方針の転換と再生可能燃料生産を重点化する計画が進行中だ。その手始めとして同社は Naantali 製油所(精製能力は5.5 万 BPD)を 今年 3 月に完全閉鎖した。 

 

 ベルギーでは、大手トレーダーの Gunvor が Antwerp 製油所(精製能力は11.5 万 BPD)を 2020 年に閉鎖した。英国では、Petroineo がスコットランド東海岸にある Grangemouth 製油所(精製能力は42 万 BPD)の一部装置を一時停止することを検討している。

 

 スペインのエネルギー大手である Repsol は、中央部のカスティーリャ・ ラ・マンチャ州の Puertollano 製油所(精製能力は15 万 BPD)の原油常圧蒸留装置を今年 4 月 にすでに停止済みだ。

 

 製油所を閉鎖する石油精製会社が目立つなか、バイオ燃料への転換を図る動きもある。フランスの Total は2020 年 9 月、Grandpuits 製油所(精製能力は10 万 BPD)でバイオ・リファイナリー化をはじめ、バイオ・プラスチック製造、プラスチック・リサイクル設備の設置、ソーラー発電施設の建設を決定している。

 

    スウェーデンでは、Preem がLysekil 製油所(精製能力は22 万 BPD)にスラリー触媒式残渣油水素化分解装置を建設する残渣油転換(Residue Oil Conversion Complex=ROCC)プロジェクトを中止し、スカンジナビア最大の再生可能燃料企業となるべく、Lysekil 製油所のバイオリファイナリーへの転換を始めている。

 

 イタリアのEniは、地中海のシチリア島にある Gela 製油所をバイオリファイナリー化する目的で、1年半ほど前から改造工事に着手しているという。BTU (Biomass Treatment Unit)プラントの建設は完了したとの情報も伝わる。Gela 製油所には、EniとHoneywell UOP が共同で開発した、バイオ燃料生産向けの水素化精製プロセス が導入されている。 

 

 新設されるBTU は、シチリア島内の魚や肉の加工工程で副産する油脂や廃食用油、さらには、アフリカのチュニジアで生産されるヒマシ油を原料としてバイオディーゼル、 バイオナフサ、bioGPL(bioLPG)およびバイオジェットを生産する前処理装置になる見通しだ。

 

    Eni はバイオリファイナリーの生産能力を 2024 年までに約 200 万トン/年に倍増し、2050 年までに 500~600 万トン/年に拡大する計画だ。さらにイタリア北西部にある Livorno 製油所(精製能力は8.4 万 BPD)のバイオリファ イナリーへの転換を検討しているとも報じられている。 

 

 製油所の精製事業に逆風が吹くなか、エネルギー企業はバイオ燃料開発に取り組むことで生き残りを模索する。一方で、投資判断を延期する動きもみられる。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大にともなう燃料需要の減退予測のほか、環境に負荷を与えるといった観点から事業そのものを見直す動きがある。

 

 スウェーデンのストックホルムに本社を置く大手電力・エネルギー会社のVattenfallは昨年6月下旬、オランダのDiemenに建設予定のバイオマス発電所(120MW規模)プロジェクトの投資判断を再検討することを明らかにしている。周辺住民や環境保護団体などが建設反対運動を起こしているのが理由という。同社は今後、話し合いを続けていくとする一方、最終投資判断(FID)を今夏以降に延期するとの見通しを既に表明済みだ。

 

 国際エネルギー機関(IEA)は、世界石油需要予測レポートで「精製事業部門の見通しは依然として 厳しい」との見解を示している。特に、欧州地域の製油所は需要が減少する一方、精製設備能力は「過剰な状況にある」と分析している。

 

 専門家の間では「脱炭素化社会への移行に拍車がかかるなか、製油所の運営はますます厳しくなるだろう。脱炭素政策を先導する欧州エネルギー企業の動きは、いずれ他の国々や地域にも波及するはずだ」(エネルギー・アナリスト」との声が上がっている。


 

在原次郎

 ジャーナリスト。エネルギーや鉱物、食糧といった資源を切り口から国際政治や世界経済の動向にアプローチするほか、コモディティのマーケットにかかわる歴史、人物などにスポットを当てたリサーチを行なっている。