7月6日に開催された、川上敦氏による経済情報セミナー。本最終回ではアメリカ、中国、EU、日本それぞれの経済状況、マーケットそして金利の近況をお伝えする。

 

 

アメリカ経済近況

 アメリカの、「名目成長率-10年国債利回り」は、乖離が大きいほど実体的な金融緩和が大きいということになる。これがコロナで直近大きくマイナスへと下がってから直近でゼロ近辺へ戻ってきた。つまり、大きく経済がシュリンクして金利が経済実態より大きくなっていたものがようやく戻り、普通の状態にまで回復したということだ。少なくともこれまでの金融緩和が功を奏して引き締まった状態になったということで、企業にとってはまずまずの状況となっている。

 

 3月に1人あたり15万円のばらまきを行ったアメリカでは、潜在GDP成長率が実態GDP成長率をまだ上回っている。要は、需要が不足している(デフレ・ギャップ)というのがアメリ当局の認識であり、雇用のさらなる良化を課題としているということ。つまりインフレは押さえる方向で金融緩和はある程度継続することは間違いないだろう。量的緩和が外れるのはおそらく秋口から、少しずつ実施していくのではないだろうか。一方ではコロナ禍での財政支出大盤振る舞いでの内需過多で貿易収支は現状厳しく、赤字幅を更新継続中。過去の最悪期(2007~2008年)程度の状況に至る事態となっている。

 

 

グラフ

 

 

 雇用者数は、非農業部門では回復が見られているものの全体労働参加率をみてみるとこの5月・6月はほぼ変化がなく、つまり非農業部門以外の分野は回復が鈍化傾向にあり決してよい傾向とはいえない。

 

 賃金は前年比+3.6%とコロナ前水準を回復したが、低賃金労働者が労働市場に戻ってきていないことを踏まえるとこちらも実質的な上昇であるわけではない。(下グラフ左:米国労働参加率 右:時間当たり賃金推移)

 

 

グラフ

 

 

 失業保険給付状況の側からみてみると、申請件数としては2020年2月に歴史的最低を記録した後急増を経て、今は件数36万とピーク時よりは大分減ってきてはいる。しかし一方、失業期間別失業者数においては最長の27週以上失業者数が高どまっていることから、失業保険の期限を迎えた層が再就業できていいない例が増加しているようだ。(下表左:米国失業保険受給件数 右:27週以上失業者数)

 

 

グラフ

 

 

 一方米国の実質消費はこの3-4月に前年を上回った形となり、消費者心理は改善の傾向がみられている。特に小売の売上高は急増しており、コロナワクチン普及に加え財政チケット配布が功を奏しているとみられる。自動車販売はというと5月は前年同月1.4倍の売れ行きで2019年並み水準となった。しかし、企業の景況感は大きく回復はみせたもののこのところ頭打ちで、鉱工業生産も同様に頭打ちになりつつある。消費者物価ではエネルギーと食料品の上昇がけん引し上昇しておりそれらを除くと+1.62と全体インフレ率はそれほど高いわけではない。つまり、消費心理がこの2分野(エネルギーと食費)に偏っている傾向がみられる。

 

 

中国経済近況

 実質GDPは10‐12月期には増加したが、1‐3月期は10‐12期を越せずに終わった。つい先週発表された中国国内景況感でもグラフは下に垂れてきており、コロナ復活成長も1年を超え、景気サイクル面では一巡感が出てきているように見受けられる。自動車販売においても、直近確認できる5月水準では前年同月こそ超えているものの全前年同月は越せずと、意外に振るわない結果。電力発電量も同様で、前年比は上回るも全前年比は上回れず。貿易収支も今年1~5月分まで分は前年同期比でペースを下回っている。これら指標の傾向から、中国経済は今ピークアウトしてきているように伺える。海外から中国への投資比率は現状10%にも満たないため外国資本による盛り上がりも当面考えられない。また、今政府が公共工事時を相当にやっており債務が膨らんできている。

 

 

EU経済近況

 GDPは前年比でもあまりよくない。

 

 PMIにおいては製造業では伸び率鈍化の一方サービス業は今上昇中、70%を超えた。消費者側面では、小売売上高が前年比+23%と大幅に改善で、コロナ禍での抑圧ストレスが吐き出されてきている。消費者物価指数(CPI)は前年同月比+2%くらいだが、食料とエネルギーを除くとさほど高くはなく、真の物価押し上げまでにはまだ至っていないようだ。ユーロ圏ではマネーサプライはターンしてきている一方対外貸し出しが増加中。

 

 

日本経済近況

 対ユーロ圏、対米、対アジアいずれも、輸出量が2019年時の手前水準まで戻ってきた。特に半導体の輸出は今非常に調子がよい。

 

 雇用面賃金では、賃金水準は残業がなくなったことで前期比マイナスが続いていたが5月にようやくプラス。有効求人倍率は年度明け若干の回復をみたがその後は横ばいが続いており2019年水準にはまだ遠い。ところで日本の労働力は生産年齢人口でみると2021年に8000万人を切り、2023~4年を経ると減り方が大きくなってくる見通しとなっている。

 

 消費動向調査結果では6月は改善しており消費者心理は吹っ切れてきているようだ。しかし一方東京の6月消費者物価指数は-0.01%と殆ど変化がなく、デフレをまだ引きずっている。業種別ではサービス業が非常によくない状況からなかなか脱却できない一方、鉱工業生産は大幅改善で機械産業はよくなってきている。半導体不足で自動車産業は今大変だがその反面半導体装置などの機械受注は上向き。日銀短観7月の大企業設備投資は+と出て、大企業が設備投資に意欲を戻してきていることが分かっていい傾向だ。

 

 

世界債権、金利

 今、ハイイールド債の利回りが6.65%と1996年以来歴史的に最も低い水準になっており、2017年時の10%と比較しても異常に低い。ハイイールド債の発行体にはシェールオイル事業者がとても多いため、オイル価格が上昇すると半比例的にハイイールド債利回りが低下する傾向にあることがこのことの背景としてある。また例えばギリシャの10年国債が利回り1%に満たずととんでもなく低い水準でイリュージョンの世界に近くなってしまっている。

 

 S&P500のVIXインデックスも今非常に低く、株式市場に対しても市場は楽観的になっている。

 

 ドル長期金利は3月の1.75%あたりをピークに頭を打ってきたところ。2年金利は動いておらず、3ヵ月金利は下がっている。10年金利は日本で若干の他豪でもそれなりに高くなったが、そのほかの国では殆ど動きはみられない。中国では金利は2年物も10年、物も下を向いている。政府も企業も債券を出しているし、景気が良好であるならば上がるのが筋ではあるはずだが実際は上がってきていないことから、中国景気がさほどではない様子が伺える。

 

 

世界株式市場

 日本株式市場はこのところ頭打ち。上海株式市場は報道されるほどのさほどの上昇はみられず高値を更新するまでには至っておらず、中国景気の良さが飛びぬけたものではないことが伺える。BRICSはブラジルの資源価格上昇に乗って上がった形。インドは資源価格上昇に乗り上昇。ロシアはオイル価格上昇に乗って上昇。ジャカルタ、タイは頭が重くなってきている。ハノイのみ外国資本入ってきておりいまだ上昇止まらずの状態。

 

 アメリカは独り勝ちの状態だ。EPS(一株当たり利益)でみてみるとナスダックが37%、SP16%の上昇と、デジタル企業が多いナスダックで利益貢献大きい。(しかし4-6月だけの上昇率ではSPがナスダックを凌駕)バリュエーションではやや過剰気味に伺え、現水準から2割程度の利益上昇または株価下落があれば米株式市場はノーマルな状態といったところ。一方日本株式市場は現状が過熱もひかんもなくほどよい水準といったところとみる。

 

 

(IRUNIVERSE USAMI)