7月6日に開催された、川上敦氏による経済情報セミナー。本回では、長期また直近における世界各国労働生産性の変化、そして2021年GDPのIMF予測分析を解説する。

 

 

労働生産性

 面白いデータがあるので紹介する。下表は、AIを活用した場合とこれ以上活用しなかった(現状ベースでいった)場合とを比較した、2035年迄の経済成長予測でアクセンチュアがだしたもの。アメリカがトップで成長が予想されており、日本は低い方から数えて4番目の成長率とみられている。

 

 

 実際スパコンの開発状況は各段に伸びてきている。また、成長加速要因となりえるものにはAI以外にも、例えば、エネルギー貯蔵技術や3Dプリンター、次世代遺伝子技術、自動車自動化、物のインターネット化、知的労働のオートメーション化、新素材、先端エネルギー開発など様々ある。

 

 OECD加盟国における1人あたりGDPでは日本は37番中21番目で、1位がルクセンブルク、2位がアイルランド。1人当たり生産性になると日本は26番目に落ちて韓国にも負ける。労働生産性が低い背景には、ずっとデフレを容認してきた手法や、教育の問題、などが根底にあって、総合的に改善していかないと相当厳しい状況だといえる。

 

 

■OECD諸国1人当たり生産性ランキング(2019年データ)

 

グラフ

 

 

 OECD諸国における、労働生産性及び1人あたり労働時間の両方の変化を1年間調べたデータによると、生産性が上がってかつ、労働時間を減らせた国としてチリが断トツトップとなった。一方日本は非常に小さい変化幅となった(生産性の向上・労働時間短縮ともにあまり変化がみられなかった)。変化があまりなかった国としては日本以外ではフィンランドやポーランド。変化が低い国については、まだ工夫の余地は十分に残されているものの着手が不足している結果だとみる。

 

 次に、日本企業における収益率・資産効率(下表)をみてみると、営業利益率(青線)についてリーマンショック前と今とで殆ど同水準となっており、企業収益性の観点から日本では、一人当たり付加価値生産力がこの15年ほどにおいて殆ど伸びてこなかったことが分かる。

 

 また、設備投資/キャッシュフローの推移が2%を切る状況がこの20年は継続しており、さらには企業が保有する剰余金においては1970年代より右肩上がりであるといったデータ等からも、日本の企業が大した経営努力をせず資産を蓄えているばかりという全体像がみえてくる。こうした企業はこれから益々、敵対的買収の対象になっていくだろう。

 

 設備投資額を直近でみてみると、前年より、コロナの影響下従来に増して控える傾向が強まっており、今年1-3月期においてもまだ全体的に控える傾向がみられたが、アメリカでは1-3月期に既に企業の設備投資が回復してきていたことから、日本でも4‐6期の結果は若干の積極性は戻ってきてはいるかもしれない。

 

 ただ、総じて、近年の日本企業はキャッシュをため込む傾向があり(減価償却と経常利益の半分しか投資していない)、前向きに投資を行わない分、利益剰余金も大してあがっていかないという傾向がみられる。

 

 さて労働市場では今世界的に、ミドルスキル保有者の働き口が削減される一方、ロースキル(単純労働)とハイスキル、特に技能者などハイスキル人材が多く求められるようになってきている。興味深い下表は、1995年から2005年にかけての、各国労働力がどのように変化したかの表であるが、斜線のミドルスキル人材はいずれの国においても減少していることが分かる。

 

 

グラフ

 

 

 また別のデータでは、日本のみのデータではあるが(下表)、2014年頃から全産業特に製造業において労働装備率が上昇に転じてきていることから、ミドルスキル人材の業務を機械化する流れとなっていることもわかる。

 

 

グラフ

 

 

2021年世界経済成長予測

 IMFが4月に出した各国経済成長予想を検討してみたい。

 

 世界GDP伸び率は昨年がー3%からの今年は+6%との予測であるが、エマージングである状況を鑑みたとしても先進国がそこまで成長できるかについては疑問を抱く。

 

 特にアメリカなどは+6.4%と予測されているが様々データを検証する限りにおいて本当にそこまで伸ばせるかは疑問だ。

 

 ヨーロッパは昨年がー6.6%からの今年+4.4%ということだが、大幅なダウンからの回復としてはだいたいこんなものだろうか。日本は今年は+2%くらいではないだろうか。

 

 中国は昨年がー2.3%、今年は+8.4%との予測されているがこれもクエスチョン。各データから、中国の今の経済成長は頭打ちになってきているようだからだ。

 

 一方インドは投資も入ってきているし予想は+12.5%と大胆だが以外にいけるかもしれない。ロシアは+3.8%の予想となっているが、資源国だからなんとかはなるかもしれない。アセアン5カ国の+4.9%予想はこんなもんだろう。

 

 そしてこちらは、エコノミストによる2021~2022GDP予測(データはEconomist6月調査)。

 

 

表

 

 

 日本はIMF予想とおおむね一致。中国も一致だが高すぎるのではないか。新興国のペルーやコロンビアのいやに高い数値は去年のリバウンドを鑑みてだろう。ベトナムも高い数値となっているが、この国は今資金が来ており来年も引き続き投資は続いていくだろう、エコノミストもそのように予測しているようだ。アセアンはやはり強い。フィリピンも強い。インドネシアもまずまず。タイは他国と比べて早くに工業国になった分、戻りがやや遅めとの予測となっている。

 

 

(IRUNIVERSE USAMI)