7月6日に開催された、川上敦氏による経済情報セミナー。世界の債権債務、金利、コモディティ、株、景気全般にわたって直近と今後の見通しについて。まずは総合見解からはじめ、順を追って項目毎に解説する。

 

 

総合見解

●今世界は貿易バランスが非常に悪い状態で、特に基軸通貨国での債務が大きくなってきている。今すぐではなかったとしてもいずれ、ドルの安定性がクエスチョンになってくるのではないだろうか。

 

●アメリカ国民はコロナ禍およそ1年半に渡り我慢し溜まったストレスが3月から放出しだしてきているが、一方米の雇用状況はそろそろ改善のピークに差し掛かってきているように見え、そろそろ頭打ちになる可能性が見えてきている。この先夏頃までは良好な勢いが継続すると思うがその先、秋以降のシナリオとして、それ以上雇用状況が改善して米経済が良くなる見通しには疑問である。

 

●中国は去年から循環的回復が始まって勢いがあったが、今年から頭打ちになってきている様子。一方ヨーロッパの経済は今少しずつよくなってきており本格的な改善上昇はこれからだろう。イギリスについてはこれから規制緩和が行われてもう一段ポジティブな方向へ行くと思うが、上限はそれ程高くはないだろう。

 

●日本については日銀短観からも今年は企業の投資意欲が伺えることから、ヨーロッパ後追いの形で経済回復していくだろうとも思われるが、そこまで強い回復基調がみられるわけではなく上昇幅は小さいものになるだろう。コロナを経て振り返るとアメリカの振れ幅が最も大きかったということになるのではないだろうか。

 

●インドとベトナムには今、外国から強い資金が入ってきている。インドは長い意味では人口増加方向にあるし、ベトナムは中国代替とみられ中国からの企業が入ってきていて、今はハノイが非常に強い状態。

 

●金融市場については、この1年で株は高くなってきたこともあり今年後半は上昇幅落ち着くのではないだろうか。今、米株価は2~3割の高水準にあるとみられ、今後、EPS(1株当たり利益)が増えるかまたは株価が調整するかのどちらかの減少になるだろう。

 

●金利の方では、インフレの懸念は収まりつつあり、FRBではおそらく2023年までに2回程度利上げを実施するとみられる。このあたりの操縦はうまくやれているのではないだろうか。

 

●コモディティはオイルが直近で上がりすぎているが、これからシェールオイルが再開されてくれば需給は緩和されてくるとみられる。穀物についてはバイオ燃料の原料としてこれまで上がっていたが、最近はバイオ燃料自体の採算性が良化してきたため、足元ではピークアウトしているようにみえる。全般的にコモディティの上昇は一旦収束の方向性に向かうようにみえる。

 

 

世界各国債権債務の現状

 各国債務については、額単体だけでみると日本が断トツで高くなるが、日本政府は他各国と比べると資産も同時に大きなものを持っているため、純債務で見た場合対GDP比では米国と同水準であり、実態としてはあまり大きく捉える必要はない。純債務で見た場合世界の中では今、中国が相当大きくなってきている。ギリシャも相当量の債務を抱えており国家資産が少ないため支払い能力に懸念があるということで危うい状況。

 

 アメリカの債務状況、下表のブルーの家計のところをみてみるとリーマン直前に急増しているのがわかると思うが、これは支払能力がないのに資産を持たせた(払えない住宅ローンを抱えた)という当時の状況を表している。家計債務が国家債務に並ぶ水準になってくると早めに破綻が来るということの証左となっている。そして今をみてみると米の家計債務は政府債務の80%くらいになってきている。かたや日本は今64%くらい。中国も日本とほぼ同水準で、この割合は世界の中では低い方。

 

 

■米国債務状況

 

グラフ

 

 

 米国の債務状況はコロナ影響でもってこの3~4四半期に急速に増えた。バイデン政権は今期国家予算を1.9兆ドルつけ、来年は6兆ドルつけると大胆宣言しており、政府債務がさらに伸びていく可能性があるわけだ。政府借入の上限を設けないとデフォルトになってしまうがアメリカもかなり危ないところにきているのではないか。

 

 中国の債務は、グラフ上(下表)では圧倒的に非金融企業の分が多くなっているが、中国に詳しいエコノミストによれば、実際はこれより少なくとも20%は政府債務が多いと言うことでおそらくその線が信用できるのではないか。

 

 

■中国債務状況

 

グラフ

 

 

 あと気になるのはイタリアとギリシャ、両国ともコロナで政府債務が急増しており厳しさを感じる。

 

 

■ギリシャ債務

 

グラフ

 

■イタリア債務

 

グラフ

 

 そして下表が、日本の債務状況と世界の債務状況。

 

 

■日本債務状況

 

グラフ

 

 

■世界債務状況

 

グラフ

 

 

 対外純資産債務については、総裁残高(資産)トップが日本、2位がドイツ、3位香港、4位中国、5位台湾と続く。台湾を中国に入れたと考えるとすると中国が日本を越して1番になる。一方、ワースト(総裁残高債務)は突出してアメリカ。

 

 アメリカの対外債務はドルのばらまきで各段に増えてきている。リーマンショックの時点で-4兆ドルだったが今はその3倍を超えた。特にこの2年半ほどで急速に増えてきていて、直近の経済的政治的な動向が影響していることが伺える。リスクある状況になってきている。

 

 

(IRUNIVERSE USAMI)