米国人にとって、これほど待ち遠しかった独立記念日(7月4日)は、ここ数年なかったかもしれない。新型コロナウイルスによる制限の多い生活から「普通の生活」に戻る大きな節目とる日だったからだ。今年は4日が日曜日。週末と重なり、解放感が増幅した。ワクチンの普及で観光地などには多くの市民が、マスクをせずに詰めかけた。

 

 知人や友人、家族でいつものようにバーベキューを楽しんだ。昨年は「無観客」だったニューヨークの花火大会は、「復活」を祝うかのように過去最大級の華やかさだった。ところが、この週末は米国の「闇」も浮き彫りになった。発砲事件が各地で相次ぎ、過激派集団の謎の行動が市民の不安をかきたてた。一部メディアは「血塗られたホリデーウィークエンド」と表現している。 2日(金)から4日(日)までの72時間で、全米であった発砲事件は約450件。少なくとも150人が死亡した。

 

 治安悪化が顕著なシカゴでは振替休日の5日(月)を含め93人が撃たれ、州兵を含む16人が死亡した。けがをしたのは76人で7人の子供、2人の警察官が含まれる。車中から銃を放つケースが目立ち、5日夕には歩道を歩いていた15歳の少年が背中を撃たれ重体だ。5日未明には、アパート近くの大型駐車場に集まって花火などをしていた人々に何者かが車中から何度も発砲した。21歳と26歳の男性2人が頭などを撃たれて死亡。12歳の少女と13歳の少年を含む4人がけがをした。

 

 このほか、4日午後には5歳の少女が、5日早朝には6歳の少女が発砲事件に巻き込まれ、けがをしている。

 

 シカゴでは今年、発砲事件は既に2000件を超えている。

 

 新型コロナ感染拡大以降、銃犯罪が増加しているニューヨークでは、この週末、21件の発砲事件があり26人が撃たれた。このうち4日には、マンハッタンのハーレムを恋人と歩いていた19歳の少女が見知らぬ男に突然、胸を撃たれ、重体。ブロンクスでは1人が何発も銃弾を浴びせられる事件が続発した。4日早朝、27歳と22歳の男性2人が歩いていたところ、何者かに撃たれた。このうち22歳の男性は腹や手を何度も撃たれ死亡した。夜には33歳の男性がかなりの数の銃弾を浴びて死亡しているのが見つかった。

 

 ニューヨークでは銃による犯罪は今年、前年比で約40%増加している。

 

 アトランタ近郊にあるゴルフ場では、プロゴルファーが射殺された。パインツリー・カントリークラブで3日午後、10番ホールのグリーン近くで、プロゴルファーのジーン・シラーさん(41)が頭を撃たれて死亡しているのが見つかった。近くにはピックアップトラックが止まっていて、中で男性2人が射殺されていた。トラックは2人のうちの1人が所有していたものだった。容疑者は逮捕されていない。

 

 テキサス州フォートワースでは4日未明、洗車場近くで銃乱射事件があった。数人の男たちが口論をしていたが、1人の男がいったんその場から立ち去った後、銃を持って戻ってきて、何度も発砲した。その場の何人かが銃で応酬した。この乱射事件で8人がけがをしたが、その多くが口論には無関係の通行人だった。

 

 テキサス州ではダラスでも4日、路上で乱射事件があり3人が死亡、2人がけがをした。現場の状況から100発以上が放たれたとみられている。

 

 バージニア州ノーフォークでは2日、6歳の少女、14歳の少年、16歳の少年と少女が撃たれた。警察は居住建造物への発砲や銃器所持などで15歳の少年を起訴した。

 

 オハイオ州トレドでは4日夜、数百人が参加する町内会の屋外パーティーで銃乱射事件があり17歳の少年が死亡、11歳から51歳の11人がけがをした。地元警察によると、通報を受けて警察官が駆け付けたところ、発砲は続いていたという。しかし、事件の目撃者らからの協力が得られず、容疑者の割り出しに至っていない。

 

 オハイオ州シンシナティでは4日夜、16歳と19歳の少年が公園で口論の末、共に銃を発射した。2人は死亡したが、現場近くにいた16歳と17歳の少女、15歳の少年が撃ち合いに巻き込まれてけがをした。

 

 一部事件の概要を記したが、いずれも衝撃的な事件で、銃社会の現実を思い知らせる。

 

 銃撃には発展しなかったものの、重武装した謎めいた男たちの集団がマサチューセッツ州で警察に摘発される事件があった。

 

 3日未明、ウェイクフィールドの高速道路、インターステート95号で、ライフルやピストルなど武器を積んだ大型車両が、警察官によって止められた。約9時間、警察隊と集団がにらみ合いを続けた末、ライセンスを持たずに銃などを所持した容疑で集団の11人が逮捕された。

 

 警察が車両の中などを確認したところARー15ライフル3丁、ピストル2丁、手動式ライフル1丁、ショットガン1丁、短銃身ライフル1丁などが見つかった。男たちは軍服のような迷彩服を身にまとい、防弾ジャケットやボディカメラも身に着けていた。

 

 警察などによると、男たちは過激派組織「Moorish Sovereigns Citizens」の支持者で、ロードアイランド州からメーン州に向かっていたという。リーダー格の男は「トレーニングをするためだ」と話しているという。

 

 「Moorish Sovereigns Citizens」は白人至上主義を訴える組織として1990年代から反政府活動を始めた。ただ、現在ではアフリカン・アメリカンや中東系の活動家が多く、法律に反対を唱え、警察官らを襲撃する事件を起こしている。

 

 男たちは今回の警察隊とのにらみ合いを、ソーシャルメディアを通じて実況していたが、なぜか、モロッコの旗を掲げていた。

 

 今回の事件では発砲などはなかったものの、一歩間違えれば凄惨な事件に発展する可能性もあった。米国内には、秘密結社として活動する過激派組織は多く、独立記念日の週末に起きたこの事件に、不気味さを覚える米国民は多い。

 

 

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Taro Yanaka

 街ネタから国際情勢まで幅広く取材。

 専門は経済、外交、北米、中南米、南太平洋、組織犯罪、テロリズム。

 趣味は世界を車で走ること。

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