国際報道によると、米国は1日、トルコを少年兵を使用した疑惑国リストに追加した。北大西洋条約機構(NATO)加盟国では初めての「汚名」ということで衝撃が広がっている。米国は、2021年の人身取引に関する報告において、トルコが支援するシリアのテロ組織「スルタン・ムラ―ト旅団」に対する「有形の支援」を行ったほか、また、米国務省幹部は記者に対しリビアにおける少年兵使用についても言及したとされる。(写真はトルコ傘下のテロ組織がWeb上に公開したものを掲載)

 

 他方、トルコ外務省は2日、米国の動きに対し「疑惑を完全に否定する」と反論を行った。トルコは、人身取引防止にあらゆる努力をしており、「自由な個人、強い社会、より民主的な一つのトルコ」実現を目指しているとした。また、米国が支援するクルド人の武装組織こそ、イラクやシリアで少年を誘拐し兵士に仕立て上げていると訴えた。

 

 トルコのシリア反体制派支援にこうした疑惑が持ち上がるのは、特に驚くべきことではない。トルコのシリア介入において傘下の傭兵集団を束ねる情報機関は、あらゆる手段を以って傭兵や工作員を集めている。既にNHKなど国内メディアによっても報じられているが、内戦により食い詰めたシリア人を高給で誘い傭兵に仕立て上げ、リビアやアゼルバイジャンといったシリアと何の関係もない、トルコが介入する紛争地に送っていたという疑惑が濃厚だ。シリア人権監視団によると、トルコ情報機関はトルコを経由して第三国へ逃れたシリア難民が放棄したIDカードをシリア人工作員に与え、クルド人勢力支配下の地域へ潜入させていたということである。アフリカの内戦におけるように、意図的に少年を募兵したとは考え難いにくいが、少年でも構わず募兵していたであろうことが「人権重視」のバイデン米政権に容赦なく突き付けられた様相だ。

 米国は、既にアルメニア人大虐殺を認定することで、同盟国の人権問題への対応では一線を越えている。これまでアフリンはじめトルコ占領下の各地で、トルコ傘下勢力による殺人、身代金目当ての誘拐、強姦など人権侵害の数々が報告されてきたが、米国、EU諸国は、中国、アサド政権といった敵対国家のそれに対するのと同様には非難してこなかった。

 

 バイデン政権は今回、改めて明確にトルコの人権侵害、違法行為に遠慮しないことを示した。米国は、既にクルド人の支援を開始した時点で、トルコとの対決を覚悟していたことは間違いない。今回の件も「ハルノート」に至る米国の警告の第二段階であると見ておくべきである。無論そこへ至らず、エルドアン政権が崩壊し、トルコが覇権主義を放棄するのを願うばかりであるが、平坦な道のりではない。

 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。今年7月に日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。