6月23日、緊急事態宣言の開けた大阪で第一回サステナブルマテリアル展が開催された。生分解樹脂や再生樹脂など、海洋プラスチック問題の解決や、脱炭素社会の実現を目的とした製品が数多く展示された会場は、コロナ禍とは思えないよう盛況ぶりで、持続可能な樹脂素材に対する関心の高さが伺えた。
 

 

生分解も次世代へ
 生分解性プラスチックで最もポピュラーなポリ乳酸は、難燃性が示されるなど、訴求ポイントがすでに次世代型に移行していることがわかる。三山バイオワークスの「PlaX」は、耐衝撃性・柔軟性・難燃性・耐久性にすぐれた素材とした射出用成型のタイプや、ブロー成型、繊維、フィルムなど、多様な用途需要に対応している。

 

 

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植物由来もこだわりの素材へ
 植物由来プラの中で賑わいを見せていたのは、バイオマスレジンホールディングスコバオリの米由来プラスチック「RiceResin」だ。

 

 

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 国産のコメ由来のこのバイオマスプラスチックは、食用に適さなくなった古米や、米菓メーカー等から発生する破砕米由来。これらは飼料化されることなく廃棄される非食用のアップサイクル・プラだ。

 

 

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 ペレットの色合いは米粒を想起させる淡い黄色で、ポリ袋もその優しい風合いが残っている。このような包装用途品のほか、食器、玩具などに加工でき、ライスレジンの含有率は70%まで高めることができるという。

 

 

非可食がカギ
 もみ殻由来のプラスチックも出展されていた。植物由来と一口に言っても、それが可食部由来であれば、食糧問題とトレードオフになる。この点で、いかに非可食/未利用素材であるかをアピールすることがポイントとなる。巴工業の扱う「TEXa(テクサ)」は、もみ殻や、パーム房(パーム搾油の残りかす)をベースにしたバイオマスプラスチック。パームについてもRSPO認証を受けたものを使用しているという。

 

 

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 素材の約半分をポリプロピレンが占めるが、これも再生PPで生成が可能だという。籾殻をより細かく粉砕すれば射出成形も容易とのこと。廃棄物と再生材由来の合成による製品群には可能性を感じた。

 

 

安全性能が従来品を超える植物由来車両パーツ
 このほか、植物を利用した高機能素材では、堀正工業の取り扱う「Bcomp」が目を引いた。

 

 

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 これは今世紀に入り自動車や航空機などで多用されてきたカーボン繊維複合材の置き換え品だ。カーボン繊維複合材は、軽量で燃費性能を向上させてきたが、その生成時に排出される大量のCO2が課題。そこで新たに活用されたのがヨーロッパにひろく生育する亜麻である。

 

 

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 目の細かいものと粗いものを重ねることで強度が高まるという。すでに、ドイツツーリングカー選手権(Deutsche Tourenwagen Masters、略称:DTM)用のレーシングカーにも採用されている。従来のカーボン繊維から置き換えたことによって、クラッシュ時の破片の飛散の防止や、低伝導性により引火も防ぐといった安全性の向上もかなえている。
堀正工業は、半年前からBcompを日本国内に紹介し始めており、今後、汎用的な自動車部品としての納入を見込んでいるとのことだった。

 

 

蓄熱によるカーボンニュートラルへの貢献
 新機能品としては、住友化学の「ヒートレージ」を紹介したい。これは、20~50℃の範囲内の特定温度域で熱の出し入れをするように設計された樹脂で、押出、射出、紡糸などの成形加工も可能だ。

 

 

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 従来の低分子系蓄熱材のように、蓄熱して液化した際に樹脂が漏洩しないようアルミパックやプラスチック、カプセルなどの容器に封入して使用する必要がないことから、加工の自由度が高いという。
現在、綿状のものは布団に応用されており、将来的には幅広く建材に活用されることを狙っている。カーボンニュートラルに欠かせない住宅断熱に貢献が期待できそうだ。

 

 

特需の後のアクリルの課題
 再生材にも惹かれる展示があった。緑川化成工業の循環型再生アクリル「リアライト」だ。

 

 

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 国内初の再生アクリルプレートで、製造時のCO2排出を62%抑えられるという。コロナ禍で急増したアクリルパーテーションが、今後、大量の廃棄を迎えることが目される中、すでに規制省庁からの課題解決に関する相談も来ているという。

 

 アクリルという素材は、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体のいずれかであるが、完成品になってしまうとその見分けはつかない。異なる素材が混ざれば再生アクリルにはできないことが課題だ。現在、緑川化成工業は、素材内容が確実である排出者からの中間廃材からのみで再生を行っており、すでに市場に出たアクリルパーテーション廃棄問題については、解決が難しそうだ。

 

 

循環型移行への課題
 再生アクリルの問題にも見られるように、樹脂は廃棄段階ではなく、生産段階での情報インプットが再生の要になる。この例は、いま世界が大きく循環型に移行することを求められている中で越えなければならない大きな溝だ。

 

 今回のサステナブルマテリアル展では、新奇性のある素材が多数紹介されていたが、最終製品への加工にはやはりバージン素材が必要である場合が圧倒的に多い。使用機能面を追求すれば構造が複雑になり再生が難しく、樹脂の再生(マテリアルリサイクル)は回数を重ねることによる劣化は免れない。期待される生分解性プラも、その分解が適うのは、多くの場合産業堆肥施設でのみでの分解であることから、いかに消費者の誤解を生まないかといったコミュニケーション上の課題も多い。

 

 産業のオポチュニティはこれらの課題にこそ、潜んでいるといえよう。

 

 

第一回関西サステナブルマテリアル展
 インテックス大阪
 会期:2021年6月23日から25日10:00~17:00

 

 

(小田一枝)