世界が米ロ首脳会談に注目するなか、米国はロシア同様関係が冷え込む、トルコとの首脳会談にも乗り出した。トルコとの関係悪化は、それが同盟国であるという点でより深刻ともいえる。北大西洋条約機構(NATO)の会合にあわせ、バイデン米統領とトルコのエルドアン大統領は14日、会談を実施した。(写真はバイデン米大統領、Yahoo画像から引用)

 

 バイデン氏は「前向きで生産的な会談を実施することができた」と述べたと、トルコのメディアは報じた。しかし、両国が抱える問題について合意に達することはおろか、解決に向けた道筋が見えることはなく、結局、なんら「糸口」を見出すことなく会談は終了したと報じられた。ただ、ロシアとの首脳会談においては、プーチン大統領の表情は終始固く、それが会談の失敗を印象づけたのに対し、エルドアン大統領は今回の会談において、時折笑顔を見せるなど、友好的な姿勢は見せることができた。

 

 両国の大きな溝は、クルド人を巡る問題だ。ロシア製対空ミサイル導入、F35開発計画からのトルコ排除といった問題も、米国のクルド人支援に端を発している。トルコは、米国への意趣返しとしてロシア製ミサイル購入に踏み切り、米国はF35計画からトルコ排除を決定した。エルドアン氏は、NATOの会合で「いいテロリストと悪いテロリストの区別が行われる」と問題提起をした。

 

 米国はイスラム国を壊滅のために、クルド人勢力の支援に乗り出し、現在も継続しているが、エルドアン氏はそれをテロリストの「選別」だと批判した。クルド人勢力は、イスラム国のように自爆テロ、市民の奴隷化といった人道に反する罪を犯したわけではない。米国はクルド人をテロとの戦いにおける信頼できるパートナーとみなし、最近ではイラン勢力への防波堤の役割も期待している。トルコへの譲歩のために、クルド人を差し出すことは期待し辛い。

 

 両首脳とも、今回の会談で「糸口」をつかむことができなかったことから、自国の立ち位置、両国関係の今の位置を改めて確認したのではないか。政権与党と連立を組むトルコの極右政党の指導者は、アメリカの外交はダブルスタンダードに基づくと批判した。米国はトルコに対して、この指導者曰く「制裁的」方針をとっているのに、対話を求めているということだ。これはまったく自国本位も甚だしい評価で、トルコへの取り組みは逆に米国の忍耐深さを示すものだ。

 

 米国は、トルコのイスラム国支援疑惑をはじめ、テロとの戦いにおける背信行為の数々、バイデン政権にとって許しがたいクルド人弾圧などの人権侵害があってもなお、トルコに関係改善のきっかけという助け舟を出しているのである。トルコに変わる姿勢がなければ、米国もまた姿勢を変えることはないということが、両首脳の笑顔の裏にある冷徹な現実であった。


 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。今年7月に日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。