イラク北部、クルディスタン地域の山中は、トルコ軍による空爆にさらされている。山中にはトルコ政府が追うクルド人武装勢力・クルディスタン労働者党(PKK)の拠点があり、それを壊滅させるのが狙いと説明され、一般にそれは受け入れられている。トルコは、元々PKKと停戦交渉をしており、一方的にそれを破棄して戦争状態を再開させた。つまり、PKK対策をしたければ停戦交渉を再開すればよいだけであり、イラク介入には別の動機がある。(写真はYahoo画像から引用)

 

 最近、トルコがイラク介入のどさくさに紛れて、山中の木を勝手に伐採し、トルコ国内の木材市場に流しているという疑惑が盛んに語られている。クルディスタン地域議会のサリフ議員(野党系「変化運動」所属)は、毎日およそ450トンの木材が不法に伐採され、トルコ国内に輸送されていると報告、イラク政府に対応を呼びかけた。クルドのメディアは、軍道をつくるためとも報じた。環境団体は、白リン弾使用疑惑と並んで、トルコによる伐採は環境への攻撃、生活破壊だと訴えた。

 

 トルコによる”伐採”と言えば、2018年3月に占領したシリア北西部アフリンがあげられる。トルコ傘下の傭兵は昨年、アフリンでクルド人農家のオリーブを切り倒し焼き払うといった蛮行を働いた。トルコが掃討を進めるクルド人ゲリラの隠れ処を破壊することが目的と言われていた。実際、クルド人ゲリラは闇夜に紛れてトルコ軍や傘下勢力への攻撃を繰り返していた。クルディスタン地域でも、PKKにとっての遮蔽物を少しでも減らそうという目的はあるものと思われる。

 

 ”盗伐疑惑”は、トルコが、イラクに介入する真意が透けて見える。シリアしかり、東地中海、リビアしかり、トルコによる海外進出には、いずれも資源にまつわる利権がつきまとう。イスラム国にしてもトルコに石油を密売することで活動資金を捻出していたが、最終的に利益を手にしていたのは不当廉売された石油の供給を受けたトルコであった。前述のアフリンにおいても、オリーブの木伐採にしても、トルコは傘下勢力を使い「黒いダイヤ」ことオリーブを収穫させ、トルコに運ぶといった「刈田狼藉」紛いの行為に及んだと非難されていた。

 

 オリーブの専門メディアは、シリア産オリーブがトルコ産に偽装されヨーロッパへ輸出されてると訴えた。トルコにとって、木材を盗伐することによる幾ばくかの利益のために、イラクへ軍事介入をしているわけではない。しかし、トルコの征くところに、植民地的な利権のルート構築されていることは指摘されねばならない。石油という大きな利権から、木材といった小さな利権まで、トルコの侵略を動機付けているのは経済的利益である。

 

 さて、イラクは国として対応をするだろうか。イラクのバルハム・サリフ大統領は、トルコにおる環境、生活破壊を非難した。サリフ氏はクルド人であり、クルディスタン地域の環境破壊について思うところは多いと思われる。イラク政府はこれまでもトルコによる主権侵害に業を煮やしており、サリフ発言はイラクの代表として適切なであった。しかし、イラクに本気で対処する余力はなく、これまで同様、座視するしかないであろう。



 

Roni Namo

 東京在住の民族問題ライター。大学在学中にクルド問題に出会って以来、クルド人を中心に少数民族の政治運動の取材、分析を続ける。クルド人よりクルド語(クルマンジ)の手ほどきを受け、恐らく日本で唯一クルドを使える日本人になる。今年7月に日本の小説のクルド語への翻訳を完了(未出版)。現在はアラビア語学習に注力中。ペルシャ語、トルコ語についても学習経験あり。多言語ジャーナリストを目指し修行中。